いつもの日常は平凡ではない
時は今朝にまで遡る――
ジリリリリリリリリッ…
目覚ましの音が鳴り響き俺の意識は急速に浮上する。
ガチャン
時間は午前七時ちょうど、いつも通りの時間に目覚めた。
「ん~~っ」
伸びをして、寝起きの頭をハッキリさせるために洗面所に向かう。洗面所で顔を洗い、歯磨きを済ませ、二階の自分の部屋に戻り、寝間着から制服に着替える。
一階のキッチンに行きエプロンを身に着けて朝食の準備を始める。今日の朝食は、ごはんと焼鮭と味噌汁にしとこう。
朝食の準備を終え俺は二階にあがり妹の部屋の前に向かう。
「桜花~、朝だぞ、起きろ~」とドアをノックしながら声をかけると部屋の中から返事が聞こえてくる。
「……ふぁい、おはようございます。にいさま」
妹の天動桜花は寝起きなのだろう、欠伸をしながら朝の挨拶をした。
桜花は、今年八歳になる小学三年生であり――俺の唯一の家族だ。両親は五年前に亡くなっており今は、妹と二人で暮らしている。
「支度が出来たら降りてこいよ。朝ごはん出来ているからな」
「はーい。わかりましたぁ」と丁寧に返事をする桜花。いつも思うがなんで、こんなに丁寧なんだろう……。
誰かの真似でもしているのかと桜花に確認したことがあるが「兄さまの知らない人です」とはぐらかされたが、誰かの真似をしているのは確かみたいだ。いったい誰の真似をしているのだろうか……。
桜花が起きたのを確認した俺は一階のリビングに戻りテレビを点けた。ちょうどニュース番組が放送していたのでチェックすることにした。
ニュースでは“魔法少女”の活躍が報道されている。
「魔法少女か……」
――魔法少女
十年前に起きたある現象が切掛けとなり現れた少女達のことであり、警察以上の権力を持っている。何より特徴的なのは、その名の通り『魔法』を使うことだろう。
俺は魔法少女のことを信用していない。ニュースの内容も都合の良いことしか伝えていないように思えて勘ぐってしまう。
「にいさま?」
降りてきた桜花に話しかけられ碌でもない思考を取りやめる。
「……ああ、悪い。朝ご飯食べようか」
桜花に心配かけないようにできるだけ明るく受け答えをして朝食を済ませていく。
朝食を済ました俺と桜花は登校するために家の戸締りをし、桜花を集合場所まで連れて行く。
桜花は、集団登校をしているため俺が同行できるのは集合場所の公園までになっている。どのみち俺が通っている高校は桜花の小学校と方向が逆だから小学校まで送ることはできないのだが……。
集合場所には既に人が集まっており、そのうち壮年の女性が話しかけてくる。
「星司くん、桜花ちゃん、おはよう」
「おはようございます。空生さん」
「おはようございます」
俺と桜花に挨拶したのは空生という近所にある商店街で俺のバイト先でもある喫茶店を経営している。桜花と同年代の息子がいることもあってよくお世話になっている。
「空生さん、桜花のことお願いします。桜花、気をつけて登校するんだぞ」
「はい、にいさま」返事した桜花は小学生の集団に向かって元気に走って行った。
「桜花ちゃんのことは大丈夫だから、星司くんも勉強頑張りなさい」
「はい、ありがとうございます」
俺は小学生の集団の中で桜花がどうしているか気になって少し振り返ってみると――桜花に親しそうに話しかけている男子がいるじゃないか!
――桜花に手を出したら許さんからな。
若干の呪いを込め桜花と話している男子を睨む。男子は寒気がしたのかブルッと体を震わせた。
***
桜花と別れた俺は学校に向かう途中クラスメイトの原嶋と出会い一緒に登校することにした。
「ゾディアックウイッチーズがまた魔獣を倒して大活躍だってさ、くぅ~~さすが魔獣討伐数ナンバーワンなだけはあるよな」と嬉々として語る原嶋は、所謂、魔法少女オタクであり魔法少女の活躍を毎日チェックしている。
「お前、よくその話題で盛り上がれるな……」
俺は若干ウンザリしながら原嶋に相槌を打つ。俺が憂鬱そうにしているのは魔法少女が信用できない、という理由だけではなく魔獣の存在そのものが気分を暗くする原因だ。
魔法少女が現れたきっかけとなった現象
『魔獣化現象』――
人間が突然、魔獣に変化するという恐怖の現象であり、規則性が一切なく人種、老若男女を問わず変化し世界中の人間が恐怖を覚えたこの現象。唯一分かっていることは女性より男性の割合が多いことぐらいだ。
「魔法少女は美少女が多いからな!」
原嶋は美少女好きでもある。
「いつか、超美少女の魔法少女の彼女を作るのがおれの夢だからな!!」
「相手にされねえと思うぞ……」
欲望に正直すぎるクラスメイトに呆れていると――
「あんたは、朝からアホなことをぬかすな!」
同じくクラスメイトの白瀬が原嶋の背中にとび蹴りを食らわした。
「ぐはああああああああ」
特撮ヒーローも顔負けの見事なとび蹴りを食らい原嶋は吹っ飛んで行った。
どうでもいいがスカートの中身が見えるぞ。俺は咄嗟に目を逸らしたから見ていない。
……嘘じゃないからな。
「おはよう、白瀬」
「おはよー、星司くん」
吹っ飛ばされた原嶋をスルーして俺は白瀬とあいさつを交わす。
原嶋の心配? いつものことだ。
「原嶋は相変わらず魔法少女の話ばかりして……。もっと気にするべき話題があるでしょ」
「何かあったのか?」
「星司くん、この町に『ジケルヘイト』の人が来たって知ってる?」
「……まじか」
魔法少女育成機関――『ジケルヘイト』、魔獣を討伐するための組織と言っても過言ではない。この組織から人が来たということは――
「碌なことにならなさそうだな……」
「ジケルヘイトの人は魔獣殲滅する為なら関係のない一般人も平気で巻き込むらしいからね……」
ニュースでは、そんな事実は無いかのように魔法少女の活躍のみを報道しているが、ジケルヘイトの酷さは周知の事実だ。だが、魔獣をどうにかできるのは魔法少女しかいないためイメージダウンさせるような報道はテレビ局もできないのだろう……。
「……何も起こらないことを祈るか」
俺と白瀬には魔獣化が起こらないことを祈るしかなかった……。
あれ? 何か忘れているような……。
「……お……ひへ…………か……なひで」
「あ」
蹴り飛ばされた時に顔を打ったのだろう原嶋が鼻から血を流しながらヨロヨロと後ろを付いてきていた。
***
俺達が教室に着いたころには既にクラスメイト達のほとんどが教室で雑談に興じていた。
「おはよ―」
俺があいさつするとクラスメイト達からも返事のあいさつが返ってくる。
「おはよ―」「おはよう」「おっは―」
あいさつを返したクラスメイトは女子ばかりだ――というより、クラスメイトのほとんどが女子であり、男子は十人程度だ。
魔獣化現象の影響で男女比も変化し、日本の場合、既に男性は人口の三割程度になっている。しかも、男性の方が魔獣化し易いということもあり、男性の扱いは悪く、女性に見下されているのが現状である。
しかし、クラスメイトの女子達からは、見下すような視線は感じられない。むしろ、親しみすら感じる。
席に着くと廊下で他の生徒と会話していた白瀬が俺に話しかけてきた。
「そういえば星司くん、今日の放課後――」
「バイトあるから無理」
俺は白瀬のセリフを最後まで言わさず断った。
「まだ最後まで言ってないよ!」
「どうせ生徒会の仕事を手伝ってほしいとかだろ」
さっき会話していたのはたしか生徒会役員の一人だったはずだ。その直後に放課後の予定を聞いてきたんだから察しはつく。こいつはいつも俺に仕事を手伝わせようとするからな……。
「い、いや~、計算が大変でさ」
案の定、俺に生徒会の仕事を手伝わせようとしていたらしい白瀬は目を逸らしながらそう答えた。
「仕事しろ、生徒会会計」
「だって星司くんの方が計算早いし。さすが、オカンだよね~」
「誰がオカンだ」
俺はクラスメイト達からオカン呼ばわりされている。桜花の世話を一人で行い家事などもほとんど一人でこなしていることが理由の一つ。
更に俺は、よく困っている人と遭遇することが多く無視することもできず結局、手助けをしているのも要因となっている。そのため、クラスメイトだけでなく学校にいる生徒達の大半に顔が知られていて少し気恥ずかしく感じる……。
まあ、先生達からの評価も高くなっているからラッキーと思おう。ただ、たまに熱い視線で俺のことを見ている女子がいることは気づいてないことにしときたい……。今は桜花のことで手一杯だから恋愛とか考える余裕ないし……。これ、原嶋に言ったら「うらやましいい!!」とか言われそうだな。
ちなみに計算が早いのは家計簿をつけているうちに、気づいたら電卓を早く打てるようになっていた。
「とにかく、今日はバイトがあるから無理だ」
「ちぇ―。まあ、しょうがないか」
俺がバイトあると断ると「ああ、めんどくさ」と白瀬が愚痴をこぼす。真面目に仕事してくれ生徒会役員……。
「なら俺が代わりに――」
「遠慮しとく。」
俺の代わりに原嶋が手伝うと名乗りを上げたがにべもなく白瀬は断った。
「俺もまだ最後まで言ってないよ! ちゃんと聞いてよ!!」
「いや~、原嶋はいらん」
「いらんって、物扱い!? 酷くない!?」
「いやだって、計算遅いし、ミスも多いし、ウザいし……」
「最後は関係ないよね!?」
いつも通りに白瀬が原嶋をいじり倒し、クラスメイト達が笑っていると、担任がチャイムと同時に教室に入ってきた。すぐさま席に着く俺とクラスメイト達。全員が席に着くと
「ホームルームを始めま~す」
担任の先生はどこかのんびりとした声でホームルームを始めた。
いつも通り出席を取る先生だったが――
「――浜川さん」
「はい」
「堀山さん」
「はい」
「あれ? 先生、俺呼ばれてないですよー。」
「えっと、原嶋くんは、欠席と……」
「え? なんで!? いじめ!?」
「……原嶋くん、土日は、何をしていたかな?」
先生にそう聞かれた当の原嶋は
「別にデカケテイタダケデスヨ」
なぜか、片言になった原嶋に俺もクラスメイト達も原嶋が何をしたか察した。
俺は頭を抱えながら原嶋に確認した。
「……お前、また宙女に侵入しようとしたのか……」
「だって……、新しい魔法少女に会いたかったんだ!」
宙女とは俺達が住んでいる春宙市にある春宙女学園の略した言い方である。
春宙女学園はただの女子校ではなく魔法少女達を育てるための施設であり、彼女達を守るために存在している。普通の女子校でもアウトなのによりもよって宙女に何度も侵入しようとするバカはこいつ以外いないが、不幸中の幸いにも侵入しようとしたのが誰なのかまではまだ、宙女の方にはばれていない。
「新しい魔法少女?」
「そう新しい魔法少女だ! 彼女の名前はマーズ・アタッカー! 名前から察するに彼女のチームは惑星がモチーフの魔法少女であることが分かる! 更に炎系統の魔法を使っていたことから惑星の名前=属性の魔法が得意なのは間違いない!! 髪の色も赤かったし――」
しまった、余計なことを聞いた。しかし、どこから仕入れた、その情報……。
「しかも彼女は、魔法少女にしては珍しく男性に対しても礼儀正しく、男女分け隔てなく接してくれるいい娘だって話だ! お近づきになりたいと思わない男がいるか、いやいない!!」
なぜに反語……。ちなみに魔獣化現象は男性の方が多いため魔法少女の中には女性は救助しても男性は無視する者達もいる。そのため男性に対してもちゃんと対応する魔法少女は珍しい。ただ、印象を良くするために表向きだけ愛想良く振舞う奴は幾らでもいるからな原嶋……。美少女なら誰でもいいのか、美少女はみんな性格が良いと思っているのか、どっちにしても、もう少し現実を見てくれ……。
「だからってこれで何度目だよ……」
俺が呆れ果てた声でそう聞くと
「八十四回目だ!」
「威張って言うな!」
白瀬にツッコミを入れられても原嶋は気にしていないようだ。ホントにこいつは……。
「あんたは……、今日という今日は――」
「まあ、落ち着いてください白瀬さん」
荒ぶる白瀬に先生が止めに入る。
「先生でも――」
「暴力はダメ。こういうときは話し合いをしましょう」
――そう話し合いをね――笑顔でそう言った先生の目は笑っていなかった。
こえー! 穏便に済ませる気なしだこの人!
「さすが先生。話わかる~」
先生の目に気付いてないのか調子に乗る原嶋。いやな予感がする……。
「胸の小ささの割に母性豊かだ!」
チーン
死んだな……。
「……原嶋くん、少しお話しましょうか。お・は・な・しを――ね」
その声には有無を言わさぬ迫力があった。気のせいかな、先生の背後から黒いオーラ的なものが見える!
「……あれ、どうしたの? せん……せ…い?」
先生が放つプレッシャーに気付いたのか、原嶋の声は震えていた。
「…………バカ」
白瀬がポツリと呟いた。原嶋、お前は本当にバカだよ……。
先生は原嶋の首根っこを掴み教室の外に連れて行く。
「あの先生、一限目は世界史ですけど……」
原嶋は、最後の抵抗をする。確かに六阪先生の担当は世界史だが無意味だ、原嶋……。
「ああ、そうでしたね。すいません一限目は自習にしときますから静かにお願いします」
そう言って怖い笑顔で先生は原嶋を連れて行った。……南無。
余談だが、原嶋が教室に戻ったのは昼休みの半ばであり、何があったか聞いても青ざめて震えるだけであった。……まあ、自業自得だな。
人生初の小説で拙い文章だと思いますので気になったことはぜひ言ってください。




