勇者は常に女性に優しい訳ではない
さてお菓子を使った餌付――じゃなくて懐柔――でもなくて好感度アップ作戦がどうなったかと言うと
「こ、これは……!」
試しに作って持ってきたフォンダン・ショコラ風チョコレートケーキを赤理にあげてみた。
桜花は「美味しいです!」と言ってくれたが果たして――
「表面はサクッと焼かれ中はしっとり、ケーキ生地の甘さを控えめにすることで中のチョコレートソースの美味しさを引き立てている――」
なんか語り出したぁあああああああああ!?
「け、結論は?」
「美味しい!」
「そりゃ良かった」
グルメ漫画の様に語り出した時はすごく焦ったぞ。
「でも、なんで唐突にお菓子なんて作って来たの?」
理由を全部話すのは流石にちょっと……。
「あ、ああ。日頃お世話になっているからな。感謝の気持ちと言う奴だ」
嘘はついていない。
「そっか。ありがとう!」
俺の言葉を聞き嬉しそうにお礼を言う赤理。喜んでくれて何よりだ。……若干後ろめたいが。
「もう一個あるけどそっちは?」
赤理が物欲しそうにこちらを見ている!
「ああ、青波にもあげようと思ってな」
あいつにも世話になりっ放しだしな。
「そっかー」
残念そうな表情で返事する赤理。そんなに気に入ったのか……。
「今度、違うのを作ってきてやるから」
「本当!」
一気に元気になったな! 現金な奴だ……。
キーンコーンカーンコーン
「――と、赤理ー、次の授業始まるぞー」
「クッキーなら量多めに持ってきてくれるかも、でもタルトも捨て難い――」
「置いて行くぞー」
赤理は俺に作ってもらうお菓子を何にしようか授業が始まるまでずっと考え続けていた。
***
「今日の授業は攻撃魔法の練習を行います」
今、俺達は変身して魔法の授業を受けている。授業を担当しているのは、この間のヒステリー気味の女教師だ。
「魔法の基本はイメージする事です。使いたい魔法を明確にすることで“ウィッカ・コア”は魔法陣を自動生成する事が出来ます」
ウィッカ・コア――魔法少女達を管理する組織であるジケルヘイトが生み出した魔力制御装置であり魔法少女達の変身アイテム。戦闘時には杖や空飛ぶ箒にもなる。生産方法、原材料など一切不明。ジケルヘイトが秘匿しているためだ。
元々防犯グッズの会社だったジケルヘイトがなぜこんなものを生み出せたのか……謎だ。
「ウィッカ・コアはあなた達の作った魔法を学習し最適化します。その結果、あなた達の得意な魔法をより使い易くしてくれます。コードネームの由来にもなっています」
先生の話を赤理のコードネーム“マーズ・アタッカー”を例に説明すると、
マーズの部分は属性、性質を指す。マーズなら火星なので火属性の魔法が得意と言う事になる。だが他の属性が使えない訳ではない。
唯単に火属性の魔法を使うと威力が上がるとか、他の人より威力の高い魔法を作ることが出来る、などの恩恵があると言う事だ。
重要なのはアタッカーの部分だ。これは本人の得意な魔法の系統を指す。魔法を系統別に分けると、攻撃、防御、回復、付与、召喚の五つになる。
つまりアタッカーの場合、攻撃魔法に優れている。
……しかし、欠点として他の魔法を使う時にマイナスの補正が入る。魔力を他より多く消費する、効果範囲が狭まるなど、一芸に秀でているが問題も多い。
「では早速、練習試合を始めましょう。天動くんと冬沢さん、こちらに」
はあ、俺を呼んだって事は――
「お二人には今から魔法の練習として冬沢さんは攻撃し、天動くんは冬沢さんの攻撃を受けてください」
やっぱり。サンドバッグになれと言ってやがる。この学園では生徒だけではなく先生も俺を目の敵にしているからな。
「はい、わかりました」
「……わかりましたぁ」
まあいい。新技を試すか。
「準備はよろしいですね。では――始め!」
「行きます!」
あーあ、クラスメイトの冬沢さんも俺を合法? 的に攻撃できるからか、嫌な笑みを浮かべてるし。
「《スノウ・ショット》!」
冬沢さんが魔法で雪の散弾を放つ。ならこっちも新魔法だ。
「《スター……フ……リー》」
誰にも聞かれない様に呟く。切り札とも言えるこれを知られる訳にはいかないからな。
「ディフェンシブ・フォーメーション!」
俺の目の前で星型のバリアが張られる。
「なっ!」
「「「「!?」」」」
俺が防いだことに驚く冬沢さんと先生と他の生徒達。この間まで防御魔法を使って無かったから驚いてるのか?
「ま、まだまだぁ!」
連続でスノウ・ショットを連発するが俺の魔法には一切通用していない。
「な、なら!」
冬沢さんが杖の先に魔力を込め始める。
「《スノウ・キャノンフォール》!」
空中から大粒の雪が地面を貫かんばかりの勢いで降ってきた。
あれは流石に一方向だけじゃ防げないな……。
「スフィア・フォーメーション!」
今度は俺の周りに球状に防御魔法を張る。そして俺に雪の弾丸が降り注ぐ。
ガガガガガガガ! と防御魔法に直撃する雪。だがそれは俺の元に届かない。
やがて雪が降り止む。
「――おおう。ディフェンシブより強度が低いから心配だったけど問題無かったか」
ディフェンシブならどこまで防げるか今度試してみるか。
「そ、そんなっ……」
冬沢さんは驚愕の為か顔が青褪めている。
「ふう。先生、もう良いですか?」
「……え!? あ、いえ! 天動くんには他の生徒達の魔法も受けてもらいます!」
え~。マジかよ……。
「しゃあねえな」
そう言って俺は他の生徒達に向き直る。
「面倒くさいから攻撃魔法の練習したい奴等はまとめて掛かってこい」
練習になるしな。
「な……!」
先生も生徒達も絶句している。赤理だけは呆れた表情で苦笑している。
「調子に乗らないで下さい!」
「鼻っ柱をへし折ってあげます!」
「ボロ雑巾になってしまえ!」
「童貞が図に乗るな!」
なんか一部の女子が発言してはいけない台詞を吐いたんですが……。
「来るなら来い。スフィア・フォーメーション」
「後悔させてあげます! 《サンダー・ジャベリン》!」
「火傷しても知りませんよ! 《ファイア・ボール》!」
「穴だらけになれ! 《アイス・ニードル》!」
「フ○ック! 《ウインド・カッター》!」
「プラネタリーオービット!」
俺の防御魔法が魔法少女達の攻撃魔法を打ち消し、弾いていく。……攻撃魔法より下品な発言している奴の方が気になるんだが……。
まあ、どの魔法も俺の防御魔法を貫く事も壊す事も無く。
授業が終わった時には立っているのは俺と赤理だけだった。
「次の授業が始まる前に教室に戻るか」
「それは良いんだけどさ……」
「ん?」
周りで疲労困憊になっている魔法少女達を見て赤理が何か言いたそうにしている。
「星司くんって嫌いになった人には容赦しないんだね……」
不本意だが否定し辛いことを言われた。
あ、先生は座り込んで呆然としているぞ。流石に魔法少女達の攻撃魔法が全て通じなかったら現実逃避もしたくなるよな。
「有りえない。有りえない……」とブツブツ呟いているが――気にしなくて良いな。うん。
今年中にもう一回投稿してみせる……!