空を飛べれば終わりではない
あれから色々な飛行方法を模索したが……
「……やっぱりこれしかないのか?」
『これが一番イメージしやすいと思いますよマスター』
結局方法は一つしかない、と言う事が解ってしまった。
「でも――」
『物は試しです。――飛びます』
「ま、待って――ひぃ!」
それは剣の上に立って乗ると言う方法。サーファーをイメージすれば解りやすいと思う。実はこの方法は結構早くに思いついていた。でもこの方法はずっと避けて別の方法はないかと模索していたのだ。
なぜなら――
「やっぱただ立ってる状態で飛ぶのは流石にこえええええええ!!」
捕まるところがなく、自身のバランス感覚のみで操るのは高所恐怖症じゃなくても怖い。
考えてもみろ。高速で動く板の上を立った状態で乗っているのだ。足場は狭いは、動くは、速いはこれで怖くない奴はタオ○イ○イぐらいだろ!
え? この間落下してる時は平気だったのになぜ怖がるかって? 解説しよう。
まず魔法少女が魔法を使うのに必要なものは何だ?
当然魔力が必要だろう。だがもう一つ必要な物がある――杖だ。
杖――魔法少女達が魔法使うときの制御装置であり補助装置でもある。魔オフを使う時の威力調整、魔力制御、魔法構築のサポートと魔法少女達にとって必要不可欠な物だ。俺の場合は剣だけどな。どのみち持っていないと危険なのは変わりない。
これは後で知ったことだが初めて変身した時に一番魔力を消費したのはステラが現れるまで無意識に使っていた身体強化だ。強化は出来ていたが制御は出来ていない、魔力は垂れ流し状態だったそうでステラが制御してくれなかったらもっと早くにぶっ倒れたそうだ。
結局、何が言いたいかと言うと、俺は剣がないと魔法を使えない。
もっと正確に言うと魔法は使える。だが前みたいに魔法の反動で落下速度を落とそうとする時に剣が無いと、最初の方で全力砲撃になり途中で魔力切れ起こす。そして空中で変身が解けて、そのまま落下=GAMEOVERだ。
それじゃ背中に翼を生やす魔法とかで飛べば良いんじゃね、と思うだろ?
…………出来るんなら最初からやっとるわぁああああああ!!
なぜ出来ないかって!? 魔法少女の杖や俺の剣は魔法を使うための制御装置であるが、杖や剣は複雑な制御には向いていないのだ。飛行魔法を使用する為には姿勢、速度、高度など制御が必要な事柄が多く負担が掛かり過ぎる。その上、必要な魔力も莫大で移動に使うだけなら身体強化して地上を全力疾走した方が遙かにましだ。この様に空中を自由自在に飛び回る魔法には問題が多すぎる。
それを解消したのが飛行モード――魔法少女の箒だ。
杖を乗り物の様な形態に変化させることで制御を格段に楽にし、形態を変化させたことで箒に魔力を流すだけで空を飛べるようになった。
要は武器そのもの一部の魔法に特化させた形態にすることで必要な魔力と負担を格段に減らしたのだ。
結論を言うとただ飛ぶよりも何かに乗っている方が飛行し易い。
俺が剣の形状を変化させることに拘っているのはそのためだ。しかも一度形態を変化させると次から同じ形態にしかならない。
だから他に飛行方法が無いか調べていたんだ。
ちなみに、今はただ単に剣に乗って飛行魔法を使って試しているだけだ。なので――
『マスター、魔力がそろそろ危険域に達するので着陸します』
すぐに終わる。やっと恐怖で一杯の飛行訓練は終了した。
「――はぁはぁ、はー」
『大丈夫ですかマスター?』
肉体的な意味では無事だが、精神的にはボロボロだよ……。
「なあ、本当にこれしかないのか?」
『マスターが他にイメージしやすい飛行方法があるなら問題無いですよ?』
……くっ。覚悟を決めるべきか、足掻き続けるか……?
「星司くん、大丈夫?」
赤理が――今はマーズと呼ぶべきか?
「ああ、慣れない飛行で疲れただけだ。心配かけてすまないマーズ」
「赤理で良いよ。コードネームは学園の外で魔獣と戦う時に呼ぶものだよ」
そう言うものなのか?
「まあ、その時でも星司くんって呼ぶけどね!」
「なんで!?」
「だって星司くんの名前は全国に流れているし――」
魔法少女達がコードネームで呼び合うのはプライバシーを守るためらしい。魔法少女にはマイナスイメージがあるからな。見バレしたら危険だろうし。
「それに星司くんのコードネームは呼びにくいよ」
「……まあな」
あまり言いたくないが……。
「星司くんも流石に恥ずかしいかなって」
「魔法の名前を考えるのは楽になったけどな」
「微妙に皮肉ってるよね。“星屑の救世主”ってコードネーム」
そう俺のコードネームはスターダスト・セイヴァー。コードネームの由来は、俺の名前である星司から星を、更に(魔法少女側から見て)必要のないものから屑、そして世間から見た俺の立場に当たる救世主。そして決まった俺のコードネームは星屑の救世主になった。
なんていうか……厨二病乙!
「そんな事より赤理に相談したい事があるんだが」
「なに?」
「さっきの俺のやり方以外で何か飛行方法思いつかないか?」
勇者ロボ好きの赤理なら何か良いアイデアが浮かぶかもしれない。
「そうだねー……」
真剣に考えてくれている様だ。本当にこの子は良い子だ。
「んー剣を背中にくっ付けて飛ぶのはどう? イメージ的にはジ○ットス○ランダーとか○ワーダ○オンの背中にファ○ヤージ○ンボに付けるようなイメージとか」
「うん、わからない」
黒鉄の魔神は解るけど後は良く知らん。俺が知っているのは勇者王だけだからな。
「わからないなら解説してあげる! まずね――」
しまった! 余計なスイッチが入った!
その後、夕食の準備をする時間になるまで赤理の勇者談義を聞く羽目になった。
次回投稿は来週の日曜日までに行います。