drifter
私が少女だった頃、私が砂場で遊んでいると、
「こら、そんなに汚して。おててがかわいそうでしょ」
ってママが。
ああ本当だ。こんなに汚れて、可哀想な私の手。
私がひざを怪我すると、
「あらあら、痛そうね。あなたのひざが泣いてるわ」
って、学校の先生が。
ああ本当。こんなに痛そうな私のひざ。ごめんね。
私が中学生になって、ひどく心が痛んだとき、私は私の手首を切った。
そしたら、
「ねぇなぜ?どうしてあなたは自らあなたの心を傷付けるの、こんなに血を流して」
って、誰かが泣いてた。
皆、私が私を傷付けたら、傷付いた体の一部や心を指して、『あなたの』って言う。
手も、ひざも、私の所有物の一つなんだって。
でもそしたら、
“私”は誰……?
私はやがて、私の“心”を捨てた。
傷付かないよう、苦なく生きられるよう。
そんな私を、“私”は笑っている。
嘘を重ねながら……“心”に嘘をつきながら生きている私を、見下ろして笑っている。
でも、いつしか“私”は、無数の恋に囚われた。
“私”は私の手に、ひざに、髪に、背中に、そして心に恋をした。
それらがただただ愛しくて。
私を“私”のものにしたくて。
“私”には、私が誰だか分からない。
だとしても--。
やがて“私”は、私の所有物になり、つき続けた多くの嘘を抱きしめた。