闘争3
「やめて!」
気付くとリカが俺に抱きつき固い床に押し倒していた。俺は完全にリカの下敷きになった状態で目を瞬かせた―ずっと側に居たリカの存在を忘れる程、男との喧騒に熱を上げていたのか。
一瞬何が起こったのか分からなかった。
リカは座り込んだまま俺の前で両手を大きく広げて震えていた。丁度俺を守るみたいに。
どうやらリカは身を挺して俺を庇っている。呆気にとられた俺―そしてこの男も―は、ただ目を見開かせこの闘争に乱入した可憐な少女を見つめていた。
「もうやめてよ・・・マコトに、ひどいこと・・・しないで・・・お願い・・・」
リカは泣きじゃくり、最後のくだりはほとんど言葉として聞こえなかった。
リカの涙を見た傍観者達は一斉に憐憫の情をリカと、細やかながら俺にもかけ始め男の立場はあたかも傲慢な悪者のように仕立てあげられていた。
流石に、俺もバツが悪くなってしまった。リカを泣かせるつもりではなかったのに。
「リカ、俺なら大丈夫だから、もう退いていいよ」
「大丈夫じゃない!なんでマコト、わざわざ、な、殴られるような事言うのっ・・・」
本当にその通りだと、傍観者達の目が語っている。今やこの空間を統べるのはリカというか弱き少女だった。
「この男はリカを侮辱した。それが許せない」
「そんな、そんな理由でお、男の人に殴られ・・・かも、しれなかっ・・・」
しゃくりあげた泣き声は最後まで放たれることはなく、代わりに俺の胸に顔を埋めて震えている。
腕力でいうなら、間違いなくあちらが上だったろう。喧嘩という名の暴力が始まれば俺はあっさり負けていただろう。それでも引く訳には行かない闘いだった。それ程俺にとっては意味のある事だった。
騒ぎを聞きつけた教職員がその場を治めるまで、リカはずっと震えながら俺を抱きしめていた。
俺はリカの腕の中、リカも大きい方ではないが俺は更に小さかったのだと、今更ながら感じていた。
先生たちに手を引かれて指導室に行く間、俺とリカは互いの手を決して離さなかった。