少女たちの秘め事1
放課後の教室には案の定俺とリカの二人しか居らず、開け放した窓からは野球部の掛け声が聞こえていた。リカは美術部に属しているはずだが、その部は週に1,2回程しか活動していなかったため必然的に俺と過ごす時間が多い。そして今日もまた、日が暮れるまでリカとの他愛もない愛しい雑談が繰り広げられていた。
「なぁリカ、この前一組の奴に言い寄られてただろ」
「言い寄られてたわけじゃないよ、名前を聞かれただけだもん」
それを世間ではナンパって言うんだぜ、と至極真面目に言い返してやったらリカは何がツボにはまったのか涙を流して笑っていた。
「もう、マコトってば。名前を聞かれただけでナンパなら出会い頭にされ放題じゃない」
「そうだけどこのタイミングで名前を聞くか?他には何を聞かれたんだ、メアドも?彼氏の有無も?」
そこまで聞かれてないよ、と言ってまたしてもリカはころころと笑った。
俺達は二組に属している。一組は特待クラスなので、超難関大学を目指す化け物揃いのエリートクラスだ。他のクラスから見れば一組は崇高な、しかしどこか畏怖のものでもある。
そんな奴がリカに一体何の用だというのだろうかと癪に障る。
俺はリカを自分だけの華として常に傍に咲いていて欲しかったのだ。誰か、ましてや他の男になんて摘み取られて欲しくない。
こういう思いを何と言うのだろう。嫉妬か、執着か。それとも。
「どうかしたの、マコト」
「何が」
「眉間に皺がよってます」
リカは臆することなくえいっと俺の額をその細い人差し指でこづいた。そして微笑みを浮かべて顔を近づけてきた。こういう場面は何度もある。俺が不機嫌になると彼女は俺から離れるどころか気後れすることなく顔や体を近づけてくる。その度に何だか申し訳ないような、くすぐったいような不思議な気持ちに浸る。決して不愉快じゃない。むしろ、心地良い。
こういう思いを何と言うのだろう。
「・・・リカは、男と付き合ってセックスしたいと思うか」
唐突に、俺の心に溜まっている黒い影を放出してしまった。