俺という一人称の少女についての備考録
「結局の所、リカはどうなんだい。気になる異性がいるのかな」
「よく分かんないよまだ。それよりマコトの話をしてたんでしょ」
結果として俺は道化師の仮面を脱ぎ捨ててこの春の匂いのする菩薩のような少女の側に居る道を選んだ。最初のうちはクラスメートの女子に散々「もっと面白い人だと思ったのに」だの何だの言われたが、幾日も経てば誰も俺の事を話題にする人もいなくなった。実にありがたいことに。
「マコトってどうして自分の事を俺って言うの?」
リカが大きな瞳でじっと覗きこんできた。
なるべくなら通りたくない道だったが、親しくなった今避けては通れない話題だ。俺は確かに女の性別を持って生まれてきたのだ。僅かばかりの乳房に、女性器もある。顔や体つきだって、リカよりも小柄な方だしとても屈強なイメージとは程遠い。おまけに体も弱くしょっちゅう貧血を起こしている。
リカが、いやどんな人だって「俺」という一人称には違和感を覚えるのだろう。
「小学生の時は僕だったぜ。今は大人だから俺なのさ」
「そういうことじゃないでしょ。もう」
リカは半分むくれたような顔つきを見せた。そんな所も愛らしいと感じぜずにはいられない程、彼女に心酔していた。
はっきりとした回答としては俺は自分の性がよく分からない。
確かに女性として生き育ったにも関わらず、男の一人称を使い続けていた。
理由も曖昧だし、勿論公の場ではしゃんとした言葉遣いで話せる。ただプライベート、殊更リカという親友の前では素の自分に戻ってしまう。
「よく分からないんだよ、本当は。でもリカと一緒なら分かる日が来るのかもな」
リカは、少しだけ哀愁の漂う眼を覗かせていた。
「じゃあ分かるまで離れないでね」
どんなマコトでもマコトだし、それでいいんだけどね本当は―と独り言のように言ってリカはまた微笑んだ。
分かっても分からなくても離れないさ、と言おうとして俺は照れたように言葉を飲み込んだ。