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僕らの墓標に咲く花  作者: 疑堂
第八話
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ヒトの限界①-①

 出生に拘らない王室守護八将の中でも、ザハの経歴は異常である。

 ザハに親はいない。妊婦の死体が土葬後に出産、赤子のザハは自力で墓から這い出す。

 教会に引き取られたザハは、幼い頃から世界を不可思議な視点から見ていた。

 競争と淘汰は生物が生物であるがゆえに発生する、ごく自然な現象である。おそらくこの星だけでなく、どこの異星でも行われているのだろう。

 だが戦いを回避する知恵を身につけた我々人類が、今もって争っているのはなぜだ?

 生物の本能から脱却したはずの人類が、さらなる邪悪さで暴虐を尽くしているのは?

 高度な知性体には、高度な知性を持つに値する振る舞いがなければならない。だが今の人間に、世界に、それは存在しない。

 幼かったザハ少年の目の前で、教会の神父が寄棲獣の成体化で死んだ。しかし教会の関係者はすぐに神父の存在を忘れ、平然と漫然と日常を過ごす。そうしなければ人間の心はすぐに壊れてしまうからだ。

 それがザハ少年には許しがたく思えた。

 決定的だったのは、軍部に引き抜かれたザハが初陣に勝利した日。仲間は笑ってザハの生還を、勝利を祝ってくれた。

 人が人を殺すのを喜んでさえいる事実に、ザハは愕然とした。

 ザハは確信する。この世界は狂っていると。



「ならばレベル8をアグレイに寄贈し、この世界を終わらせるまで!」

 掲げられたザハの掌が、何かを握り潰すように閉じられる。ザハの隻眼には正気。

「お前は人間だけの罪を、世界の全てに背負わせるつもりか!」

「人間も世界の一部にすぎない。

 なら私は人間を生み出した自然を! 生態系を! 歴史を! この星を否定する!」

 それは全世界に対する、宣戦布告に他ならなかった。

「私がやらずに誰がやる」

 ザハを動かしているのは悪意でも狂気でもない。ただただ純然な使命感、そして熱意。

 聖者の高潔さと厳格さ、破壊者の凶暴性と容赦のなさ、賢者の理性と知性、英雄の独裁性と愚かしさ、ザハはその全てを熱く吐き出す。

「どうして最近の若い連中は、話し合いが通じそうにない奴ばかりなんだ?」

 悲嘆に暮れて項垂れたザヘルの頭を、パッキィは宥めるように撫で回した。

「どうやってヒガンバナに潜り込んだ? ライフニールとロゼッタが、僕を裏切ったとは思えない」

「答えは一つ、ほんの些細な偶然だ。

 私の軍属という履歴は本物だ。二人が私の先輩であるのも。私は二人に可愛がられていて、王室守護八将の肩書きは秘匿事項だがそれ以外の戦歴は充実し、信頼性も戦力も申し分ない。あとは二人に誘われる確率だけだろう?」

 今のザハには、ヒガンバナに身を置いていた時期の面影はない。可愛い後輩という仮面をかなぐり捨て、断頭台の刃のような潔癖性を剥き出しにしている。

 何もかもにも辻褄が合う。ザハがヒガンバナの内部にいたからこそ、誤情報によってヒガンバナとレイダースを衝突させ、さらにマリオとの合流地点にカーダを送り込むことが出来た。同様にヒガンバナの情報網を駆使すれば、ルキとアリエッサを、アリエッサの姉であるヴァネッサに襲わせることも可能だ。

「二人を、騙したのか?」

「処世術の延長だよ。形式儀礼を額面通りに受け取るな。

 それに偶然だと言った。偶然にヒガンバナの内部に入り込める機会が転がってきたから、最大限に利用させて貰ったまでだ」

「言いたいことはそれだけか?」

 イェルの言葉は、疾風に運ばれた。

 いつの間にかザハの胸から大太刀が消え、ザハの首から上も消失している。

 夜空に舞い上がるザハの頭部。何が起きたか分からずきょとんとしている。

 ザハの首を刎ねたイェルに、予期せぬ方向からの攻撃が襲いかかる。完全に油断していたイェルは側頭部に直撃を受けた。

「やれやれ、どんな石頭だ」

 愚痴りつつ、ザハは左手で額をさする。右手は自分の頭を鷲摑みにしていた。

 切断されたザハの頭部が、イェルに頭突きをかましたのだ。手に持った頭をぶつけるのを、頭突きと言うのなら。

「お前……どうして生きていられる?」

 イェルは困惑していた。頭を押さえながら、手振りで周囲に警戒を促す。

 死体族とは見た目が死体を模しているだけで、厳然とした生物だ。心臓を貫かれ首を刎ねられては死ぬしかない。一見した感じでは、ザハは精霊型宿主でもなければ、レックス並の再生力を有したカテゴリgでもない。

 王室守護八将はその性質上、能力を秘匿する傾向がある。同じ王室守護八将ですら、互いの能力を知らぬ者まで存在するほどに。

 王室守護八将は、平時においては国軍に従事している。つまり通常の軍務は、主要能力を使わずにこなしているのだ。

 全員の驚愕を余所に、ザハは何食わぬ顔で首の切断面を合わせて接続。具合を確かめるように首を撫でる。

 その場に甲高い鳴き声が降ってきた。四人の見上げた先、上空で奇妙な鴉が旋回していた。人間の子供ほどの体躯を有し、三本の足を持った怪鳥だ。

 それはヤタガラスと呼ばれる霊鳥。世界中に生息する三足鳥類でも、東方の島国に生息する種である。

 冷静に現状を確認するイェルに、さらに背後からの衝撃が体を突き抜ける。その方向は視界の死角であり、それ以上に誰もいないと確認し終えた意識の死角であった。直撃を受けたイェルが弧を描いて宙を飛び、墓土に墜落する。

 イェルを背後から撥ねたのは墓石、いや、墓石に擬態した怪虫だ。全体的な形状は甲殻類に酷似し、半球状の頭部から伸びた細長い胴体、巨大な一対の鋏と無数の腹足から、まるで蠍とカブトガニを足した印象を受ける。

 トゥームミミック。俗にミミックと総称される擬態生物の一種で、墓石に擬態して死体と参拝者を餌食とする怪虫である。

 無数の腹足を蠢かせ、墓虫が高速で地表を這う。

 ザハの掌にヤタガラスが降り立つ。ザハは手首だけで鴉を投擲。空中で鴉の翼が刃、頭部が鍔、三本の足と尾羽が柄となった片手剣に変貌し、ルキの喉元へ直線を引く。

 ザハの側面に回り込んでいたマリオへ、墓穴から炎と冷気と毒霧の放射。急制動と爆発で距離を取るマリオ。

 ザハが鉄鎖の手綱を引き、墓穴から巨体が跳び出す。四つの頭部を持った馬並みの巨犬、サタンケルベロス。

 鴉の片手剣をパッキィが撃墜。片手剣は地面に墜落することなく、再び鴉の姿となって飛翔を再開。

 三人を陽動に、ザヘルがザハの背後に音もなく忍び寄っていた。ザハの延髄へと放たれた必殺の貫手が、墓虫の甲羅に受け止められる。

「諦めろ。お前を倒してこの馬鹿げた計画を止めてやる」

「違うな。馬鹿げているのは世界そのもの、そこで生を受けた我々そのものだ」

 ザハの右からイェルが、正面からアブルが同時攻撃。ザハは大太刀を鴉の剣で受け止め、拳を拳で相殺。その一動作だけで四人が目を剥いた。

 四人に倣って戦線に加わろうとするルキだが、パッキィは「邪魔よ」の一言で切り捨てる。ルキより格上のヴァネッサとカーダを束ねていたザハを相手に、ルキは足手まとい以外の何者でもない。ルキの表情が脱色され、悔しさと自噴に歯を食いしばる。

 ザハの両手が翻り、アブルとイェルを弾き返す。さらに右手首を返して背後のパッキィに鴉剣を投擲し、左手は鎖鉄球に変化した墓虫でアブルに追撃を加える。左からのマリオを、地獄犬の三種の息吹で牽制。

「ちょっと待て!」

 腹部に墓鉄球の直撃を受けたアブルが、背中で墓石を破砕して着地。驚愕と畏怖に声を上ずらせる。

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