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僕らの墓標に咲く花  作者: 疑堂
第七話
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聖者の出陣①

 半身から無数の手足を生やしたカーダは、悪趣味な美術品と化していた。捕食した人々を、部分的に吐瀉しているのだ。男の太く逞しい腕、女の細くしなやかな腕、子供の頼りない腕、肥満しきった腸詰めのような腕に、老人の萎びた腕と、老若男女種々様々な手足。性別や年齢だけではなく、白や黄色や黒や赤といった肌の違い、丸太のような巨人の腕に、毛皮に包まれた獣人の腕など、種族すら無秩序に捕食されている。

 無数の手足を生やしたカーダの左側にマリオが、同時に墓の刺青を持たぬ右側にパッキィが走り込み、怒涛の勢いで攻め立てる。

 マリオが水の刃を振るってカーダの手足をまとめて伐採し、水滴の弾丸を放つ。カーダは無数の手足をフナ虫のように蠢かせ、高速で地を這って水滴を回避。水滴と手足の剛力による破壊で、アスファルトの路面が耕作直前の田畑のように耕される。

 カーダの進路上にパッキィが走り込み、カーダと交錯! 鮮血を撒き散らし、夜空に五つの円が描かれる。斬り飛ばされた五本の腕が、回転しながら舞い上がっていた。

 パッキィは剣を一振りして血糊を払い、静かな動作で鞘に収める。

「高速剣かっ!」

 速いというよりも、無駄がなく、美しいまでに洗練された太刀筋だった。斬撃を常に最少最短の動作で繰り出してくるため、カーダですら回避し切れなかったのだ。

 カーダが転進し、再びパッキィと交錯。二次元の動きである剣の軌道を攻略すべく、上下左右から無数の手足を壁として突き出す。

 カーダから逃げるように、パッキィも後方に走り出した。両手が長剣の柄と鞘から離れ、両腿に下りていく。右手で荊を意匠した鍔の剣、左手で蓮華を意匠した鍔の剣を抜き、両腕が高速で乱舞。視界一面を埋める掌と足裏の弾幕を、縦横無尽にやたらめったら手当たり次第に斬り捨てていく。

 高速剣は居合のような抜刀術に限らない。高速剣は動作の最適化を主眼とし、速度では居合に劣るものの、あらゆる得物をあらゆる体勢から最速で繰り出すのを特性としている。腕力と体力で劣る女性のパッキィが、宿主を超えるために辿りついた答えだ。

 常人でありながらハダンやコーツを押さえ、隊長の席に座る化け物なだけあった。

 だが、カーダの敵ではない。カーダの口元に毒花の笑みが広がる。

 他人の手足を何本切られようが、カーダは痛くも痒くもない。無数の手足を斬り飛ばされつつ、自身の腕をパッキィに突き出して捕食の態勢に。

「そいつの能力は人間の吸収だ。近付かない方がいい」

 それより先に、マリオがパッキィを真横に引っこ抜いた。パッキィと入れ替えに前進して飛び蹴りを放ち、防御したカーダが後退。二人も一旦後方に引き、態勢を立て直す。

「お礼は言わないわよ」

「結構。僕も今は仲良くする気になれない」

 互角の展開ではなかった。負傷し疲労する二人に対し、カーダは全く消耗していない。

「のんびりしてていいのかな? 今この瞬間も、どこかで誰かが死んでいるんだよ?」

 二人の焦りの炎に、挑発という油を注ぐカーダ。即座に二人の感情が激しく燃え上がるが、唇を噛み千切る冷静さで再びカーダの側面に移動する。

 この戦いに時間制限がなければ、カーダの敗北は確実だった。しかし実際は、勝負を早めに決したい二人の攻撃は自然と大振りになり、回避し反撃される隙を生み出している。またマリオとパッキィの間に存在する不協和音も、連携を乱す要因となっていた。

「ところでの」「なんですか、母上?」

 三人から離れた場所で、アブルはマリアを庇いながら戦況を見つめていた。マリオとパッキィを見守る視線には温度がなく、二人の不協和音をどう思っているのか窺えない。

「アブルは参加せんのか?」

「私が動けば、無防備な母上が狙われますからね。

 それにあいつを倒せば終わりではないので、戦力は温存しておくのがいいでしょう」

「アブルは優しい上に頭がいいのぅ。どこかのボンクラとは大違いなのじゃ」

「私は頭がいいわけではありませんよ? 単に理屈っぽいだけです」

 マリアの誇らしげな言葉を、アブルは淡白に否定した。マリアの表情が点と棒の組み合わせになる。

 二人の心をさらに掻き毟るべく、カーダの瞳に悪戯めいた輝きが灯った。

「そういえば、そこの教主はカーダの行方を捜していたね。よろしい、教えよう」

 カーダの指先が、カーダの胸元に向けられる。

「私だよ。私がカーダだ!」

 アブル、マリオ、パッキィに同様の困惑。目の前の男の言葉を理解しかねる。

「ほんの一週間前までマルベリウスに収監されていた人間が、どの口で自分をカーダだとデマかしているんだい?」

「おや、そこまで知っているのかい。つまらないねぇ」

 男の身元を明かすマリオの言葉に、男は唇を尖らせ、肩を竦める。

「当事者であるキミらに、こんな偽名が通用しないのは承知の上だよ。

 私がカーダを名乗っている理由は、一つに寄贈者の全情報網を駆使しても足取りの摑めないカーダへの合図さ。名を騙り自分を摸倣している人物がいると知ったら、出てこずにはいられないだろう?」

 このまま暴動が続けば、カルギアの壊滅は確実だ。そこへさらに十年前の脅威を呼び戻して拍車をかけようとするなど、寄贈者の精神構造は常軌を逸している。

 閃光と轟音、それに悲鳴が走り抜けた。全員が音の発信源に目を向ける。

 家具店から光線が溢れ出し、外壁を断裁。内部の様子が顕現する。

「ルキ!」「ヴァネッサ?」

 パッキィとカーダが名を呼ぶ。全員の一致した見解は、〝構図がおかしい〟、だ。地面に倒れるヴァネッサに、回転砲を向けたルキ。両者の間に割って入ったアリエッサを、ヴァネッサの腕が貫いていた。

 アリエッサはヴァネッサに背を向け、ルキを正面に、両腕を広げている。どう見てもルキからヴァネッサへの攻撃を阻止しようとした、としか解釈できない。

「あ、あ、あああ……!」

 ヴァネッサはアリエッサの血に濡れる手で顔を押さえ、瞳を動揺に揺らす。

「アリエッサ、な、何で?」

 ヴァネッサと同様に、ルキも混乱していた。ヴァネッサを庇ったアリエッサに、そして負傷に。アリエッサの体を抱き、腹部を押さえる。血が止まらない。

「……さん、なの……」

 アリエッサの声は弱々しい。それでも命の残り火を振り絞って、必死に口を動かす。

「姉さんなのよ!」

 蒼白となったルキの顔を、アリエッサの吐き出した血が赤く染める。アリエッサの手が伸び、ルキの頬に添えられ、

「お願い、ルキ。姉さんを許し」

 アリエッサの唇から次の言葉が紡がれることは、永遠に訪れなかった。

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