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僕らの墓標に咲く花  作者: 疑堂
第六話
34/51

終末を寄贈する者①

 カルギア市全域を襲った爆発は、市内各地を破壊し大多数の死傷者を出した。主な建築物は軒並み倒壊し、路面が荒れ果てて車両は走れず、断線によって電力は供給停止。

 夜の始まりを狙い打った広域破壊によって、被害状況の把握も救助もままならぬ。

 それから数十分が経過し、事態は加速度的に悪化していく。

 奇跡的に生き残った市民に、連続して訃報が飛び込んできた。

 パルタミア山を下った数十体の成体寄棲獣が西門から侵入。さらにザジ村の避難民が密やかに宿されていた幼体寄棲獣によって、一斉に宿主として覚醒させられる。

 混乱に陥る市民をさらなる絶望に叩き落すように、南部からはペンダラスの槍碧(そうへき)騎士団がカルギアに出立。目と鼻の先の国境である、ディダラス盆地まで進軍していた。

 市内全域の破壊に始まり、成体寄棲獣の侵入、宿主化、ペンダラスの侵攻によって、市内の恐慌は一気に暴動へと発達する。

 カルギアは地獄と化していた。子供の首と脚が摑まれ、無造作に引き千切られる。路面に内臓がぶちまけられ、のぼせるような湯気を上げる。若い女が成体寄棲獣に銜えられた。女性は頭から丸呑みされ、悲鳴が喉の奥に消えていく。女の放った何十条もの光線が人体を解体し、首が、手足が、内臓が、断面を炭化させた肉片が散乱していった。黒焦げになった焼死体が、時折命の残滓で痙攣するように微動する。肉片と化した人肉を、野良犬や野鳥が銜えて去っていく。排水溝には大量の血液が流れ込んでいき、市内のそこかしこから怒号と絶叫と悲鳴と呻き声が聞こえてくる。

 暴徒と化した市民同士が互いに殺し合い、略奪し合っていた。〈アグレイの腕の日〉を超える災厄は、ついに幕を上げたのだ。

 マリオとエルリオンは、雑居ビルの窓から市街を眺めていた。

 ヒガンバナもマリオの手を離れて暴徒の一角と化している。

 マリオは情報戦と破壊工作の専門家であるが、兵士であって指揮官ではない。統率力がないのは自分でも理解しており、軍属時代の二人の後輩を指揮官として迎えた。

 マリオは〈アグレイの腕の日〉を繰り返させまいと協力してくれた二人を利用し、殺し、最悪の結果を招いた自分が不甲斐なくなり、唇を噛む。

 マリオが見つめる中、市街地では次々に死体が量産されていく。かつてヒガンバナを名乗っていた者が殺し、殺され、人の波は緩やかに、しかし着実に移動していく。

「鮮やか過ぎる暴走。かなり前から、寄贈者の手の者が入り込んでいたようですね」

 エルリオンの推測を耳にしても、マリオの視線は破滅に彩られた街並みから一瞬たりとも離れない。しかして意識は、ここにはいない誰かの元に飛んでいた。

「ザヘルとパキフィリアは無事かな?」

「生存したようですよ。今は暴動の対策にあたっているとか」

 即答したエルリオン。マリオの懐疑的な視線が水平移動する。

「どうして知っている?」

「私の本業は情報屋です。本職の人間を見くびらないで下さい」

「お前こそ、本職を見くびっていないか?」

 エルリオンに返したマリオの言葉は、敵意にも似た疑問で煮え返っていた。

 それまで災厄を阻止する側だった二人が、いつの間にか敵意に駆られるまま、災厄を加速させる側に回っていた。

「そろそろ、お芝居を終わらせようじゃないか」

 マリオは猛禽よりも鋭い眼光でエルリオンを射抜き、猛獣よりも激しい凶暴性を放出。空間に亀裂が走りそうなほどに、室内を緊張が圧していく。

「エルリオンの音を古カイウス表記で書き、公用語で発音すると『アーク・レオン』

 同様に公用語の表記を新ウーラ発音で読むと『アルディオン』となる。

 まさか肉体を持たない、カテゴリeの完全精霊型宿主とはね。驚いたよ」

 マリオにたじろぐ素振りすら見せず、エルリオンは含みのある表情を浮かべたまま。

「大多数の構成員を寝返らせるには、構成員を管理する立場でなければならない。そして彼らは死んだ」

 マリオの言葉でエルリオンの表情が豹変した。それまで摑みどころのなかった青年が、殺気すらまとわせた厳しい表情となる。

「可能性は、一つだ」

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