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僕らの墓標に咲く花  作者: 疑堂
第四話
24/51

君を弔うヒガンバナ④-②

 そして時間は一つ前へと巻き戻る。

 これは二番目の真実。


「なぜ、だ?」

 ザヘルの声は震えていた。震えたままの声で、ヒガンバナ教主を問い詰める。

「なぜ、そんなダサい白尽くめなんだ? なぜ、今どきどこにも売っていないパンタロンなんだ?」

 ザヘルの激しい詰問に、教主は呆れと自分への疑問を等分して苦笑を浮かべた。

「そうだね……きっと僕は、僕の往く道に誰も巻き込みたくなかった。誰にも僕の道を踏ませたくなかった。だから、僕自身を世界から隔離したかったのかもね」

 優しげな表情を浮かべる教主と、厳しい表情のザヘルが対峙する。

 ザヘルの一歩後ろで推移を見守るディオも、内部で沈黙を貫くアブルも、

 地面に転がるハダンも、街灯にぶら下がったルキも、側溝に頭を突っ込んだコーツも、

 左腕を失った痩身長髪の男も、血の海で絶命した小柄な女も、ビルの屋上から推移を見守る赤毛に翡翠の瞳の男も、

 誰も彼もが動けない。

「お前、いつから宿主になった? どうして俺に黙っていた?」

「う~ん、数ヶ月前かな。お前に黙っていた理由は簡単だ。言う必要を感じなかったし、言いたくなかった」

 教主が宿主になり、ヒガンバナという組織を立ち上げ、宿主を洗脳している理由を、ザヘルはたった一つしか思いつかない。

「やはり、カーダを?」

「違うよザヘル」

 しかして教主の口から叩きつけられたのは、否定の言葉。

「いや、カーダを殺すという目的も、もちろんある。

 けれどそれ以上に、僕は〈アグレイの腕の日〉が許せない。〈アグレイの腕の日〉を起こした奴らを許さない」

 教主の口から溢れ出す、胸の内の沸騰した憎悪と、それ以上に痛切な願望。

 ザヘルには疑問ばかりが増える。

「どういう意味だ? アグレイの腕の切欠を作った連中は、事件で全員死んだ。それともお前は、アグレイの腕に関わった全員に復讐するつもりか?」

「ああ、違う。そうじゃないんだよザヘル。お前はあれほど大規模に膨れ上がった事件に扇動者がいなかったと、下準備がなかったと、本気で思っているのか?」

 それはザヘルが、アブルが、ディオが、事件に巻き込まれた全員が疑問に感じていた事柄だ。あれだけ大規模な暴動に、人為的な策謀が関与していなかったのかと。

 教主の言わんとしているところに気付いて、ディオに衝撃が走った。

「奴らはこのカルギアを再び災厄に見舞うべく、とうの昔に活動を始めている。だから僕は一刻も早く、彼らに対抗できる組織を作らざるを得なかった」

 教主の言葉に、誰もが呆然と、愕然と、衝撃を受けて何ら行動が起こせない。〈アグレイの腕の日〉の記憶と再来の予告は、誰しもの思考力を砕いていた。

 確かに『破滅が訪れる』という触れ込みは、いたずらに市民を不安に陥れる反社会的な主張だ。〝教団〟としての活動が皆無であるのに、ヒガンバナがカルト教団と称されるのは、教団という分類で主張の信憑性を薄れさせて身を潜めるためだろう。

「どうして私たちを頼らなかった? どうして真実を告げなかった?」

「どうして? どうしてだと言ったか?」

 ディオの言葉は教主に油を注いだ。歯を軋らせる不快音が、夜の静謐を破り捨てる。

「元々は、お前らレイダースの調査不足と怠慢の所為じゃないか。

 最近のカルギアで頻発しているいくつかの事件、大規模破壊と凶悪犯罪の連続発生、寄棲獣の活発化は裏があると警告したのに、取り合わなかったじゃないか」

 教主の弾劾に押し黙るディオ。突拍子もない情報提供だが、完全に彼らの落ち度だ。

 教主はディオの言い訳を待ち望むが、結局口が開くことはなく、失望と溜め息を吐く。

「話は終わりだよ」

 痩身長髪の男が土気色の顔で教主の前に立ち、壁となる。教主は男の行為を受け、背を翻した。教主の背に描かれた猛禽の瞳が、不意打ちはさせぬと眼光を尖らせる。

「待て。その話が真実なら、私たちと協力を!」

「レイダースに協力するつもりはない」

 振り返り、横目にディオを睨んだ教主の眼は、猛禽のそれよりさらに鋭く。

「かつてのアグレイの腕で大量虐殺を行ったカーダは、レイダースに所属していた。今回も同じことがないとは言い切れない」

 教主の懐疑の眼差しが、レイダースの面々を渡り歩く。そして今度こそ走り去った。

 それでも教主を行かせぬと踏み出したディオを、ザヘルが手で制する。

 疑問の視線で見上げたディオは、ザヘルの横顔を目にして息を詰まらせた。自制と葛藤で進退窮まったザヘルは、石像のように表情を固くさせていた。

「あいつの選んだ道だ。俺たちが口出しする問題じゃない」

 言いつつ、ザヘルも自分がどうするべきか答えを出せていないのだ。

 ザヘルとディオの前に、要塞の威圧感を放つ男が立ち塞がっていた。男はザヘルを凝視し、ザヘルも男を凝視する。ザヘルの唇は、自然と柔らかい微笑を浮かべた。

「追え。アイツを守ってやってくれ」

 男は逡巡を見せるが、すぐにカテゴリwの能力で地面を熔解させて沈み、姿を消した。

 何か言いたげなディオの口に、立てた人差し指を添えて塞ぐザヘル。

 ザヘルはもう一度だけマリオの消えた路地に目を向け、動きを止めた。

 見つめた先は夜闇に塗り潰されていて、街灯がなければ半歩先も分からなくて。

 ザヘルも彼も、きっとこんな夜へ放り出されたのだ。違うのはザヘルの夜は終わりであり、彼の夜は明けが訪れる続きであったこと。

 だから彼は行き先が分からなくても、手探りでも、一歩を踏み出せた。

 少しでも灯りがあれば、人はそれを目印にどんな闇夜でも歩いていけるのだから。

「けど、あいつの道が間違っていたなら、引き戻すのは俺の役目だ」

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