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僕らの墓標に咲く花  作者: 疑堂
第四話
23/51

君を弔うヒガンバナ④-③

 そして時間は一つ前へと巻き戻る。

 これは三番目の邂逅。


「教主!」

 彼が物陰に隠れて休息していると、不意に足下から声が聞こえた。声の発生源と思しき地面が熔解し、沸騰して、地中から男が出現する。左腕を失った男だ。

「ライフニールか。よく逃げられたね」

「逃がされました」

 ライフニールの簡潔な報告に、教主は頬を緩めて苦笑する。

「あいつは変わらないな。僕も他人をどうこう言えるほど、変わってないけれど」

 教主は自嘲気味に呟き、夜空に顔を向け、ライフニールに頭を下げた。

「ロゼッタのことは、すまない」

「いえ、いいのです。アレも教主の盾として殉じたのなら本望でしょう」

 彼らは命の重さが平等だとは思わない。大切な人の命は重く、失った心の痛みは強くなる。彼ら二人も体の傷以上に、心に激痛を覚えていた。

「愛していたのだろう?」

「いえ」

 遠慮げに尋ねた教主の問いを、ライフニールは即時否定した。

「仲間意識と友愛以上の感情はありませんよ。アレはある意味、変態ですからね」

「あっれぇ~? ドコで間違えた?」

 教主の首が肩につくまで傾げられた。自問自答を繰り返す。

「今宵も華麗に僕参上!」

 空気を台無しにする声が二人に送りつけられた。暗闇の路地から小柄な人影が現れる。

 ザハは二人に接近し、教主の様子とライフニールの負傷に目を見開いた。

「どうされたのです?」

「レイダースと鉢合わせして、この様だよ」

 ザハは周囲を見回し、さらに顔を青冷めさせる。

「ロゼッタ先輩は、どこです? エルリオンさんと一緒なんですよね?」

 懇願するように問う。ザハの表情は崩壊していた。

 教主とライフニールは沈黙。それが無言の回答となって、ザハに痛みを生み出した。

「では参りましょう。いつ追っ手が現れてもおかしくない」

「そうだね。やれやれ、昔より回復が遅い。トシは取るものじゃないよ」

「教主」

「分かっているよ」

 ライフニールにせっつかれた教主が、怠惰な動作で立ち上がり、首を向け、

「お逃げ下さい!」

 ライフニールの胸から、彼の心臓を握った手が突き出されていた。五指が閉じられて心臓が破裂、周囲を真紅に染める。

 心臓を失い、絶命確実の体で、ライフニールは教主を逃がすべく能力を発動。カテゴリwの能力で手の中に短剣を生み出す。短剣は歪んだ形状で、ライフニールの意識が消えかかっているのを示唆していた。

 同時にザハも襲撃者に飛びかかっていた。腰に下げた軍刀を抜き放ち、

「キミ邪魔」

 襲撃者はライフニールの手から短剣を奪い取り、ザハに振り下ろした。回避する間もなく、短剣がザハの額から股間まで一直線に駆け抜ける。ザハの右半身と左半身は勢いのままに襲撃者の両脇を通り過ぎ、慣性が尽きて倒れた。

 ライフニールの背に、ライフニールの生み出した短剣が突き立てられる。短剣はさらに剛力で押し込まれ、柄を握った拳ごと腹部を貫通。串刺しにされた寄棲獣が飛び出す。

 実質的な能力の発動者である寄棲獣が殺され、召喚された短剣が雲散霧消した。

 ライフニールを貫通した両手が、体の両側に五指を突き立て、

「お・邪・魔・し・ますw」

 扉を開くように、ライフニールを左右に引き裂いた。

 破壊された錠のように、ライフニールの内臓が破片となってぶちまけられる。湯気を上げる肉片を踏み潰し、半身に墓の刺青の男が入室してきた。

「夜分遅くに今晩は。そして永遠にさようならだよ、ヒガンバナ教主さん」

 男の様相は踝まである癖毛、黒のレザーパンツ一枚という奇態に上乗せされて妖しげ。

 カーダの異常性と邪悪さが、教主に襲いかかろうとしていた。

「ああ、参ったな。困ったよ」

 対する教主は心底打ちのめされて、茫洋と夜空を見上げていた。二筋の流星が燃え尽きるのを凝視していた教主の瞳には、悲哀と疲労。

 腹心の惨殺を悲しんでいる、のではない。

「歳を取ると、我慢が利かなくていけない」

 教主に自制するつもりは毛頭ないようだ。

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