予兆②
夕日の斜光が、頭皮の輪郭を透かしていた。
「パールトン君、公共事情の進捗はどうだね?」
カルギア市長ピルペリヴは秘書に尋ねた。身長は子供と表現しても差し支えないほど低く、肥満し切った体は球に近い。頭皮は枯れ果てた荒野である。
「申し分ありません。カルギア東門の工事ですが、先日に改修箇所の調査と仮防壁の建造による完全封鎖が完了し、明日より修繕を開始致します」
ピルペリヴの視線の先、住宅や商店の屋根が連なる彼方に長大な防壁が見えた。防壁がカルギアの周囲を隙間なく取り囲む様は、まるで巨大な大蛇が横たわっているようだ。
いわゆる城砦都市の様相であるが、寄棲獣の侵入を阻むための防壁は、世界中どこの大都市でも見られる共通様式であった。
「交通拠点であるカルギアを通行止めにするのは経済的に痛手だが、強度の不十分な防壁を寄棲獣に突破され、幼女に何かあっては目も当てられん」
秘書はさぞかし表情を歪めていただろう。しかし幼女を逸早く発見し、愛で、脳裏に焼き付ける以外の機能がないピルペリヴの眼球は、秘書の顔すら判別していなかった。
「その他、ガッシー探索に兎球大会、市内各所の公的施設の改修も滞りありません」
「よろしい。なかなか優秀だね、ペトリン君」
「市長、私の名前を覚えてください」
「幼女以外の名前になど興味はない!」
断固として宣言するピルペリヴ。自慢のチョビヒゲが荒い鼻息で乱れる。
パールトンでもペトリンでもない秘書は、苦虫を噛み潰した表情で窓の外に目を向けた。化学工場が爆発し、化学物質による極彩色の炎が夕焼けに絢爛される。
今日も普段と変わりない。




