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Mrs. Hampshire - 自分の事を ” 犬 ” と言う豚の女 -  作者: Eisei3


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1/1

Mrs. Hampshire ー 自分の事を ” 犬 ” と言う豚の女 ー



 

 俺は、黒六白の黒豚だ。

 

 黒い体に、手足の先と鼻先、それにくるっと上に丸まった尻尾(しっぽ)の先が、白い毛で覆われている。

 だから、黒六白(くろろっぱく)。バークシャー(Berkshire)と呼ばれる、あそこもスパイラルな黒白の豚だ。

 俺たちの肉はとても美味い。紅いきめ細やかな筋繊維に、風味良い白い脂肪(あぶら)が絡む。だが、共喰いになるから、俺は食わないが。


 

 俺の趣味はスロット。自称、スロッター黒豚だ。

 

 この小さな盆地の南の外れにある、青い屋根の大きな養豚場。そこが、俺のネグラだった。

 目つきの悪い年寄りとそれを狙う自称スロプロしかいない、緑をイメージカラーにする農場近くのチェーン店の低貸しパチ屋。ここが、いつもの俺のホームグラウンドだったのだが。

 

 

 ある日の朝、俺は女に出会った。それも自分のことを自ら ” 犬 ” と言う、めす豚に、生まれて初めて … …。

 しかも恥じらうこともなく、堂々とそう言い放ってしまうハンプシャー(hampshire)の女(pig)に。

 

 その女は、短く黒い被毛に全身を覆われ、肩口を白い毛の帯がぐるっととり巻く。

 はた目には、中々お洒落な見た目をした、かなりのべっぴんさんだった。 その内(・)面(・)は別として … …

 

 また、俺の引き出しが増えていく。俺は思わずほくそ笑む。


 ( ホントにこんな奴がいるんだ 、現実に … ) ギャグじゃん、そのまんま。

 やはり、この世界は ” ギャグ ” でできている。

 俺は、その女の顔を横目で見ながら呟く。



 その女は、とても、めんどくさい女だった。

 俺は一度めんどくさくなると、もう後はどうでも良かった。もう、興味もなかった。

 かわいそうだが …


 私の鼻は、犬並みに優秀なの。昔から、” 探知犬 ” って言われてきたし …。

 女は、そう、その低い鼻をひくつかせ言う。

 ( それって … 〇〇じゃ … … )

 俺は、その女の顔を見返す。だが、それでも女は真面目な顔をしている。


 ( ふっ … )

 俺はそれを鼻で哂うと、カップのブラックコーヒーをずるずると音を立てながら飲んだ。

 そして、俺は呟く。

 「 面白すぎる 」



 15年も偽りの結婚生活を続けていれば、たんまりと生命保険を掛けることができるだろうになぁ … …

 … 自然に、誰にも怪しまれることもなく。

 義理の家族たちも、仲睦まじく装い …

 

 新居に豪邸を建てて、そこに二階に上がる急な階段を設置する。妻の綺麗好きな性格を逆手に、そこを多頭飼いしている猫の毛の掃除をさせる … そしてある日、…


 新しい、サスペンス小説のネタが …

 俺の妄(・)想(・)は、際限もなく続いていく … …



 そして …

 その女は平然と、これまでの、自分の結婚生活であった出来事を喋ってくれる。俺に。

 それを、何の疑いも持っていないような顔をして。


 俺は、その女の話に違和感を抱きながらも、黙ってそれを聞き流していく。

 ( それって、狙われているよね。絶対 … )

 

 俺の引き出しは、また一段、積み重なる。


 ある日ね、私、スキー場の雪山の中を旦那の家族たちと歩いていたの。皆、どんどん先に行っちゃって …。私足が悪いから、置いて行かれちゃって。雪山の中に一人だけになって、歩けなく …

 

 ( おいおい …。やっぱり、親族ぐるみかよ … )

 俺の妄想は広がっていく。


 そしてね、疲れてとうとう歩けなくなったの。私。周りは暗くなってくるし、雪も …。

 薄暗い、灌木の間の雪原に私一人。

 

 ( … … … )

 俺は、また引き出しを開ける。


 そしたら、ね。そこを外人の スキー客のカップルが丁度通りかかって。私を、下まで連れていってくれたの …。


 ( 見捨てられているじゃん …、それって。事故に … )

 15年の間に、そうして何度、真綿で首を絞められかけては、また緩められて … そうしてそういう人だという認識が、周囲に浸透させられてゆく。

 そして、その間に、保険金の額だけが少しずつ上がっていく。

 


 家の階段でね、滑って下まで落ちたのよ。旦那に頼まれて。猫たちの毛だらけだったから、拭き掃除してて。幸い頭を打たずに済んだんだけど …。

 旦那が悲鳴を聞いて、飛んで来てくれたんだけど。

 

 ( どんな顔してたんだ?、旦那 は、 その時 … … )

 俺の妄想は、また一歩、先に行く。

 

 掃除なんて、適当でいいんじゃねぇの⁈ 四角い部屋は丸く掃けばいいんだし …( 違うか? … )

 家事は、どこをどう手を抜くかだし … でしょ⁉︎

 俺は女が可哀そうになって、ついそう言うと、相槌をうってやる。


 そしてね、…。

 女は、さも当然の様に、俺の妄想に刺さる話を続ける。…


 その女の旦那は、中小企業の社長をしていた。海外への輸出向けの、精密機械の製造会社として。

 

 結婚後間もなく旦那の会社は、県外の廃業した工場を買収して製造拠点を県外へと移し、経営の規模拡大を図っていた。融資機関からの数億の融資を引き込み、新築した豪邸の新居をその担保物件として差し入れて …。 


 円安が追い風となり、経営は順調に回っているようには見えた。

 だが、世界規模での政情不安と戦争。そして原油価格の高騰と、原材料のひっ迫 …

 中小企業をとり巻く、見通しの効かない先行きの経営不安に、嫁ぎ先でのその女の "セーフティーネット" としての役(・)割(・)の比重は、また増していく … … …


 

 そして、彼女の夫はナルシストで、多分 …、ゲイだった … …

 

 ( え⁉︎ … 、… ⁈ )

 俺は、返答の言葉に詰まる …  さて、どう … 

 妄想も、俺には未知の領域へと向かう。

 その女の語る話は、常にツッコミ所が満載だったから …

 

 俺は黙って頭の中の空の引き出しに、新しい妄想のラベルを張り付けた。

 これは、… ⁉︎


 俺は、この世界で起こる事は、全てが "ギャグ " で出来ていると思っている。 

 だが、これはあまりにも …

 

 ミステリー小説にしてみたい。俺は話し続ける女の顔を見つめながら、ぼんやりと思っていた。





 ( おわり … )

 






注 このお話は、フィクションです。

  あくまでも、妄想です … …

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