第31話『安堵』
それから数日の晩も、同じようにして眠った。
レオンハルトは初めこそソファでノワールを見守っているが、ノワールは決まって悪夢にうなされて起きてしまう。
だが人肌を側に得た後は、不思議なほど落ち着いて朝まで眠ることが出来るようだった。
日に日に目の下のクマも薄れていき、食欲も元に戻り始めた頃の夜だった。
その日にはもう、ノワールがベッドに入る頃にはレオンも隣にいた。相変わらずノワールが掛ける厚手の掛け布団を互いの間に挟むようにレオンはその上へ自分の体を横たえ、毛布を一枚自分の体に掛ける。
片腕にノワールの頭を乗せ、レオンは慣れてきた眠りの姿勢を取った。
本来レオンハルトも眠りはそう深い方ではない。少しの物音で起きてしまうのはいつものことだった。
だがこの数日は夜中に目を覚ました記憶はない。
(ノワールのために一緒に眠っているつもりが……人肌で安心してしまっているのは俺も同じということか)
人知れず苦笑する。
腕の中のノワールも、未だに緊張しているようではあるが最初の固さはもうない。今は寝やすい姿勢を探して布団の中で身じろぎしている。
「近々、北に発つようだ。君の体調も戻ってきたからだろう」
端的に報告を済ませる。
「……お待たせして、しまいましたね。私のせいで」
「そういう意味ではない。姉上も忙しくしているようだった。……だが、馬車で二週間近く掛かる距離だ。体の弱いノワールには酷かもしれない」
馬車ではなく馬を走らせればもっと早く着くが、それは馬上に慣れた兵士にすら大変な旅路だ。不慣れなノワールは時間が掛かっても馬車で移動した方がいいだろう。道中には点々と町もある。野宿になることはないはずだ。
レオンは一度言葉を区切る。
「道中、体調が悪くなったらすぐに言うんだ。崩してからでは遅い。……約束してくれるか」
出来るだけ、ノワールが頷きやすいように言葉を選んで問う。自分の体調が悪くとも明かさない性格だ。放っておけばまた倒れるまで何も伝えないであろうことは予想出来た。
腕の中で背中を向けるノワールの表情は見えない。すぐにその頭が小さく頷く。
「……はい。お約束します」
最近は言葉を交わすのに、酷く詰まることも無くなった。
少しだけ身を捩らせて、ノワールはレオンを振り返る。
「おやすみなさい、レオンさん」
「ああ、おやすみ。ノワール」
これは、ごく最近始まった就寝前の挨拶だ。
徐々に増えてきたノワールの笑みが決まって見れる、数少ない機会。
レオンも穏やかな笑みを浮かべ、静かに返した。
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