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第27話『事件』


「では説明します!私がこの事件に気が付いたのは、城下町の酒場にいる時でした!」


 時刻は昼過ぎ。

 ヴィクトリアの執務室に複数の姿があった。

 その部屋の主であるヴィクトリアはもちろん、レオンハルト、ノワール。そして昨晩ここを訪れたシャロットだ。

 小説に描かれる名探偵のような探偵服に身を包むシャロットは、弾む声で高らかに語った。なんだか一人だけ楽しそうだ。


「とある男からジジル草の香りがしたんです。ジジル草というのは所持が禁じられている、麻薬の一種ですね。火で炙り、そこから立ち上る煙を吸うのが一般的です。これはかなり独特な香りがします。大抵こういうニオイを追うと事件に行き着くんです」

 

「……普段から好き好んで、こんな危険を追っているということか?」

 

「そうです!私は探偵兼、情報屋ですから!」


 えへん、とシャロットは胸を張る。

 一方でノワールはその香りに覚えがあった。昨日馬上で酔いそうになった臭いは、確かに草を焦がした香りによく似ていた。

 その意図を込めて頷くと、レオンハルトは渋い顔をした。


「無鉄砲すぎるが……そのおかげでノワールの痕跡を追えたというのか」

 

「正直、あれは偶然でした。その男がこのメモを落とさなければ、お知らせすることは無理だったと思います」


 そう言って、シャロットは皺だらけのメモを差し出した。昨晩もこの部屋で広げられたものだ。


「一応暗号化されてはいますが、ここに記されている指示はこうです。夜の城下町で標的の二人を引き離すので、一人を連れ去ること。町を見下ろす小高い丘の上へ、連れていくこと。標的を殺してはならない……」

 

「レオンハルトとノワールが共に出掛けることが知れていたと?」


 ヴィクトリアが素早く口を挟む。些細なことであれ、もし屋敷の使用人の口から情報が漏洩していたとしたら大事だ。

 その声に、レオンは小さく首を横に振る。


「いや……それはおかしい。昨日は本来昼に帰る予定でしたが、俺が帰ったのは日が暮れた頃でした。剣術の訓練が長引いたからです。俺があの時間に帰ることは、使用人の誰も知らなかったはずです」

 

「その長引いた理由とは?」

 

「俺の剣を気に入って、何度も手合わせを申し込んできた者がいた。中々腕が立つものだったので、俺もつい熱くなってしまったのだが……」


 相手が公爵家の長男であろうと、シャロットの態度は変わらない。

 自身を探偵と名乗った通り、貪欲に情報を探っている。シャロットは手帳を取り出して再度質問を投げ掛ける。


「その方のお名前は?」

 

「何だったかな。初めて見る顔だった。確か名は……エディ。家名は――」

 

「いませんね」


 レオンの声を遮り、シャロットは短く答える。忙しなく手帳のページを捲っていたが、その指を止めると首を横に振る。その目は真実に近付く好奇心によって爛々と輝いていた。


「昨日開かれた剣術の訓練大会に出席したのは計三十名弱。その中にエディという名前の方は一人もいません。近い響きですと、エドワード・デリックという名前がありますが」

 

「いや、そいつは違う。俺の知った顔だ」


 しん、と沈黙が落ちる。その静寂を裂いたのはやはりシャロットだった。


「では一度纏めましょう。……そのエディを名乗る何者かは、今回の事件のため昨日の訓練に忍び込んだ。そこで、レオンハルト様の興味を引きつけ、意図的に逢引へ向かう予定を遅らせた」

 

「逢引と言うな。……その城下町で俺に肩をぶつけてきたあの大男。奴が俺の注意をノワールから引き剥がした」

 

「そう、共犯者はその一瞬の隙にノワール様を連れ去りました」

 

「更に小屋の中に居た、もう一人の男。絡んでいるのは最低でも四人……」

 

「手引書が用意されていたところを見ても、突発的な犯行ではなく、ある程度計画されていたと見ていいでしょうね!」


 シャルロットとレオンハルト。そしてヴィクトリアが淡々と状況を整理していく。

 ノワールはその情報量に追いつくだけで精一杯だった。一応理解する度に小さく頷いてはいる。


 

 

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