表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/41

第15話『お姉様』


 この世界の人間で、魔法を使える者はほんの一握りだ。

 それを戦いに使えるほど洗練させられる者は、当然より希少になる。


 その力を前に、それ以上些細な暴力が振るえるはずもない。

 話は終わったとばかりに、ヴィクトリアが立ち上がる。

 レオンもノワールの手を取ってその背中を追う。その時。


「お姉様……!」


 そう声を上げたのは、双子の妹。セレスティ。

 この家で唯一ノワールを虐げはしない。かといって助けるわけでもない。限りなく『存在しないもの』として扱ってきた、光の神子だ。

 セレスティはノワールの片手を握る。


「この家からお姉様がいなくなってしまうなんて、寂しいです」


 儚く揺れる睫毛。人形のような容姿に、ノワールの視線でさえ釘付けになってしまう。

 何の違和感もなく、ごく自然に、まるで仲の良い姉妹のようにセレスティは身を寄せてくる。

 互いのドレスが重なった場所で、ノワールの手にきつく刻まれた爪痕は、誰にも気付かれることはない。


「さようなら、お姉様」


 そう別れを告げる、双子の妹の瞳は今までになく昏い色を宿していた。




「さて、片付いたな」


 馬車の中でヴィクトリアは上機嫌だった。

 反してレオンは苛立っていた。


「あの男がノワールを襲った時、なぜ何もしなかったのです?」

 

「お前がいたからだ」

 

「俺が間に合っていなかったら、ノワールは怪我をしていたんですよ」

 

「あれすら止めきれない間抜けに、私の弟が務まるはずもない」

 

「ああ言えばこう言う……!」


 雑に髪を掻くレオンに、ヴィクトリアはくつくつと喉を鳴らして笑った。


「ふふ、『どう扱っても』文句は言わないとさ」

 

「………………」

 

「お言葉に甘えて、好きなように扱わせていただこう」


 ぶり返した怒りを飲み込むようにレオンは黙り込む。

 長い脚を組み替えたヴィクトリアは改めてノワールへと向き直る。


「さて。これで今日からお前は、正式にヴァレンシュタイン家の人間だ。式を挙げる日まではローゼンベリアの姓のまま、婚約者兼客人という立場にはなるが……」

 

「……!」


 ノワールは今頃実感したように息を詰めた。

 もう、あの家に戻ることはない。もう、陽の差さない部屋で夜を待つことはしなくていい。

 自分を殴る拳に怯えることもない。

 自分の名を呼んでくれる人たちと、一緒に暮らしていけるのだと。


 何か言いたげに何度か開かれた唇は、やがて薄い笑みの形を描く。


「ありがとう……ございます」


 呟くように溢れた言葉を自分で噛み締めるように、ノワールはそっと瞼を伏せた。

 満足そうに瞳を細めたヴィクトリアはふと気付いたように声を上げる。


「ああ、そうだ。ノワール。レオンの婚約者、ひいては妻となるのなら、私は義理の姉ということになる」

 

「……はい」


 その言葉には何が続くのだろうと、ノワールの言葉の端に緊張が走る。


「では、私のことは『お姉様』と呼ぶべきだ。違うか?」

 

「………………」

 

「姉上。ノワールが困っていますよ」

 

「なぜだ。お前は『レオンさん』で、私だけ『ヴィクトリア様』なのはおかしいだろう」

 

 そんな会話を繰り返しながら、馬車はヴァレンシュタイン家の屋敷へと向かっていった。

 

お読みいただきありがとうございます。

評価やブックマーク等で応援いただけると、執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ