第9話囮
車内に、重たい静寂が流れていた。
剣真は窓越しに、外の戦闘を見つめている。
瑠璃さんの一撃で、怪物はすでに消滅していた。
それでも、視線は離せなかった。
(あれが……第二課の戦い……)
理解しきれない現実に、思考が追いつかない。
その時だった。
「ねえ。」
すぐ後ろから、声がした。
心臓が跳ねる。
ゆっくりと振り向く。
そこには――
フードを被った高校生が、当然のように座っていた。
「……っ!?」
息が詰まる。
ドアは開いていない。
気配もなかった。
「そんな、お化けでもみたような顔しないでよ。」
くすりと笑う。
剣真の体が固まる。
(いつから……ここに……)
そのわずかな動揺の気配を、東堂は見逃さなかった。
「……剣真くん?」
車の外。
東堂が異変に気づき、こちらへと視線を向ける。
次の瞬間――
東堂は動いた。
一気に距離を詰める。
速い。
だが。
フードの少年は、その様子を一瞥するだけだった。
そして――小さく呟く。
「リライト。」
その一言。
その瞬間。
世界が歪んだ。
――軋む音。
車体が、内側から捻じ曲がる。
金属が生き物のようにうねり、形を変えていく。
「なっ――!?」
剣真の体が座席ごと締め付けられる。
シートベルトではない。
車そのものが、拘束具へと変わっていく。
腕が、脚が、動かない。
「ぐっ……!」
呼吸が詰まる。
外から、東堂が手を伸ばす。
だが、間に合わない。
車両はすでに異形へと変貌していた。
人の形を歪に模した、巨大な塊。
その内部に、剣真は取り込まれていく。
フードの少年は、変わらず穏やかに笑っていた。
「痛かったらごめんね。」
その声が、すぐ近くで響く。
意識が遠のく。
視界が歪む。
「――」
その言葉を最後に、
剣真の意識は、闇に沈んでいく、




