第四話天顕教(てんけんきょう)
剣真は必死に白蓮の顕現を試みていた。しかし、潜在解放は不安定で、力は暴走寸前。ウサギのような長い耳を持つ怪物が間合いを詰め、剣真の胸は恐怖で張り裂けそうだった。
気絶していた翔は、まだ地面に伏せたまま、うめき声のようなかすれた声で神様に祈りを捧げることしかできなかった。絶望的な状況に、戦場の空気がさらに重くのしかかる。
——この日本では、古代から続く宗教「天顕教」が国家の動きにばくだいな影響力を持っていた。数多の宗派の中でも、権力を握る「真晶派」は、すべてのものの本質を見極め、力を最大限に引き出すことを重んじる。人々が潜在解放の力を使えるのは天顕教の祀る神の施しであると信じられている。
剣真が最後の力を振り絞ろうとした瞬間、校庭の空気を裂くように黒い制服の集団が駆けつけた。天顕特務公安局──真晶派直属の極秘機関、その第二課の精鋭部隊だ。その先頭に立つのは、銃谷瑠璃。
瑠璃の制服は警察官を思わせるダークネイビーのジャケットにパンツ、ブーツで統一されていた。肩章と胸の徽章が微かに光を反射し、潜在解放の力がそのままオーラのように見える。片手には銃一本を握り、目には戦場を見据える鋭い光。
「さあ、行くぞ。」瑠璃の低く落ち着いた声が戦場に響く。
剣真は一瞬でその存在に圧倒される。天顕特務公安局は、潜在解放を用いた犯罪を管理する第一課と、異教や別宗派の過激派によるテロ行為及び大規模儀式犯罪を取り締まる、潜在解放能力の無制限の武力への適用を許された武装集団である第二課に分かれていた。瑠璃は、第二課でも最前線に立つ、若手のエースだ。
だが、その完璧な戦闘態勢の中に、ほんの少しの抜けた天然さが垣間見える。替えのマガジンを忘れ、弾薬が切れた瞬間、瑠璃はふと校庭の草をむしり取り、銃弾代わりに潜在解放で弾丸化した。
「これで、銃弾を補充する!潜在解放!」
無理な潜在解放を行なったことにより緑色の草弾がリリースされた。
発射された草弾は、敵に当たるものの、ほとんど効果がない。
「…なに、全然効いていない?」瑠璃が困惑する表情を浮かべる。
「そりゃ草だもん!流石に無理ですって!」後ろにいた部下たちが思わずツッコむ。
天然の一幕を経て、瑠璃はすぐに本気を出す。周囲の石やガラス、瓦礫を瞬間的に弾丸化し、瑠璃の固有能力、潜在解放の同時発動で怪物を圧倒する。光や刃、爆発が入り乱れる中、制服姿の瑠璃はまるで戦場を支配する女神のように映った。
「替えのマガジンを忘れても、石もガラスも…私の弾丸になる!」瑠璃の心の声。
翔は戦場を見上げ、恐怖と驚愕の入り混じった声を漏らす。
「あの人…何者…」
戦闘は一瞬で決着し、剣真は呆然としていた。剣真の優れた洞察力を持ってしても彼女の弱点はその天然さを除いて、一つも見つけることができなかった。剣真が怪物の死体を前に、息を切らしながら立ちすくむ。
瑠璃さんは少し首をかしげながら、冷静に言った。
「天顕第3高等学校一年守谷剣真だな。お前、能力を武力行使のために使ったな。逮捕する。」
剣真は慌てて手を振る。
「そ、そんなつもりじゃない!怪物を倒すために、仕方なくだろ!――」
瑠璃さんはくすりと笑う。
「そうなりたくないなら、私たちと一緒に国のために働くしかない。」
剣真の視線が泳ぐ。背後には他の隊員たちの影。逃げ道はない。
「俺なんか何の役にも立たないだろ。」
と剣真が言うと彼女は
「それはお前の決めることではない。お前の力は無駄にはしない。守るべきものを守るために、だ。」
彼女は倒れ込んでいる翔に目をやりながら言った。
息を呑む剣真。拒否する選択肢は、もう存在しなかった。
「…わかった、やります。」
瑠璃さんは軽くうなずき、
「よし、それでいい。」
この時、剣真はこの人たちについていけばこのペンダントそして、今は亡き父のことも知ることができるのではないかと、心の中で感じていた。




