第二話潜在解放(ポテンシャルリリース)
翌朝。いつも通りの通学路を歩く剣真の胸には、違和感が残っていた。
昨日のあの怪物──夢ではない、確かに現実だった。手にしたペンダントが光り、鋼の粉末が集まって刀となった瞬間の感覚まで、鮮明に体に刻まれている。
だが、目の前の街並みは何事もなかったかのように静かだった。瓦礫も爪痕も、怪物の姿も跡形もない。あれだけの大きな事件だったにも関わらずニュースにもなっていなかった。
──確かに俺は、昨日戦った。
剣真は歩きながら、ペンダントが刀に変わったことを思い返す。
「どうして俺のペンダントが刀に……」
考えを巡らせるうちに、自然とこの世界の仕組みが頭に浮かんだ。
この世界では、ほとんどの人間が「潜在解放」と呼ばれる能力を持って生まれる。それはモノの性能を引き上げる力であるが、包丁の切れ味をほんの少しよくしたり、自転車のスピードをちょっとだけ上げたり──日常生活で便利に使える程度の能力しか扱えない者がほとんどだ。
だが、ごく一部の人間は、モノの性能を極限まで引き出すことができるという噂もある。フルーツナイフを鋭い剣に変えたり、普通の自転車をモーターバイクに変えたり――能力者の想像力次第で使い方は無限に広がる。
──俺の手にあるペンダントも、そういう力を引き出したのか?にしても、武器になる要素が全くないペンダントが刀になったことの説明はつかない。
考え事を巡らせているうちに、気づけば学校の門前に立っていた。
昨日の戦いのこと、ペンダントが刀に変わったこと、そしてこの世界の仕組み──頭の中は情報でいっぱいだ。
「おっ、剣真!」
声に振り向くと、クラスメイトで剣道部の友人・高槻 翔が笑顔で駆け寄ってきた。
同じ剣道部、同じクラス。学校ではいつも冗談を言い合ったり、稽古で競い合ったりする仲だ。
「おはよう、翔」
剣真は少し微笑んで答える。
「昨日、俺のメール気づいてないだろ?」
翔は少し不満そうに言った。
剣真は昨日は怪物との戦いの後、体が鉛のように重く、帰宅して爆睡してしまっていたのだ。
「ごめん……気づかなかった」
剣真は謝る。もちろん、怪物のことは伏せたままだ。
「で、メールの内容は?」
剣真が尋ねると、翔はにやりと笑いながら答えた。
「来月、昇段試験あるだろ?放課後、二人で練習付き合ってほしいってだけだよ」
剣真は小さくうなずいた。
――日常はこうして続いている。
でも、昨日の戦いが残した感覚は、まだ体に染みついていた。




