第14話 『当てる』んじゃない、『崩す』んだ。
神代は軽く手を上げた。
「まずは接近戦だ」
剣真は息を整えながら頷く。
構える。
だが、その構えはどこかぎこちない。
「……剣道をやってたのか」
神代が一目で見抜く。
「はい。でも……」
言葉が詰まる。
人を殴ったことなんてない。
「まあいい」
神代は一歩踏み出す。
「来い」
剣真は迷いながらも踏み込む。
剣道の感覚で間合いを測り、打ち込む——
しかし。
「遅い」
あっさりと躱される。
視界から消えた。
次の瞬間、肩を軽く押されるだけで体勢が崩れる。
「っ……!」
床に手をつく。
「今のは剣道の間合いだな」
神代の声は冷静だった。
「だが、ここはそれより近い。もっとうちに“入る”必要がある」
剣真は歯を食いしばる。
立ち上がる。
再び踏み込む。
今度は少し速い。
だが——
「力みすぎだ」
腕を取られ、流される。
「人を殴らことを恐れてるな。怪物相手とは訳が違うからな」
図星だった。
「……はい」
思わず答えてしまう。
神代は一瞬だけ剣真を見た。
「だが筋は悪くない」
意外な言葉だった。
「無駄な癖が少ない。伸びる」
そのまま、軽く構える。
「まず覚えろ。“当てる”んじゃない。“崩す”んだ」
言葉と同時に、神代が動く。
最小限の動き。
それだけで、剣真の重心が崩れる。
「相手の体勢を壊せば、勝手に当たる」
剣真はその動きを目で追う。
速い。だが、それだけじゃない。
日常的に人の動きを観察してきた剣真にはわかった。“無駄がない”。
「……もう一度」
自分から言っていた。
神代はわずかに頷く。
「来い」




