乙女ゲームのヒロインですが、悪役令嬢陣営に絡まれた
「ララ・フリン。君の事はどうでもいいんだ、僕達は」
学園の庭。見目麗しい少年達が一人の少女を庇い、もうひとりの少女ーララの事は冷たい目で睨み付ける。
そして冷たい目で見られた少女はというと…。
「はあ…」
いまいち響いていなさそうだった。
「なんだその反応は。もっと何かないのか」
「えっ何か反応した方がよかったでしょうか」
それを見てぴくりと眉をひそめたのは庇われている方の少女である。
「ああロザリーヌ、大丈夫かい?」
その様子に気づいた美少年達はロザリーヌと呼ばれた少女を気遣い始める。
「ううん、大丈夫よ…」
「あの、もう帰っていいですか?次の授業があるので…」
それでララに気付いた美少年達。
「ああ、帰っていいぞ…」
「俺たちはロザリーヌを愛でるのに忙しいんだ」
彼らもこの学園の制服を着ているなら生徒のはずだが、授業は大丈夫なのだろうか。どうにか間に合わせるのかもしれない。
それからしばらくして…。
「お前のせいだぞララ・フリン!」
「ええ!?」
ララのいる平民クラスに貴族クラスの美少年たちー、冒頭でララに絡んでいた美少年たちがやってきてそんな事を言ってきた。
「僕の成績が落ちた!」「俺は弱くなった!」「うまく芸術が作れない!」「評価もがた落ちだ!」
「お前が学園に入学したせいだ!」
「…なんでそう思ったんですか?」
「それは…お前が…俺たちに魅了をかけて…仕事ができなくなるって…」
「えっあなたたち私の事好きなんですか?」
「そんなわけないだろう!」「俺達には心に決めた人がいるんだ!」
「じゃあ勘違いなんじゃないですか?」
「「「………」」」
ちなみに彼らはこの貴族平民混合の学園でも有名な美少年たちでー、憧れの的だった。それぞれ高い評価を得ていて、優秀な。
「でも、ロザリーヌがそう言って…」
「私はロザリーヌさん…様とはこの間初めてお会いしましたし、魅了とかも知りませんし、勘違いだと思います。」
「「「…」」」
言い返せない。証拠なんてないのである。
「…分かりました」
ララは落ち着いた声で話し出した。
「勉強に関しては、私がノートを貸すので、それで頑張ってください。剣術に関しては私は何もできないので、これからなまってるのを取り戻してください。芸術に関しては、これもメンタルが関係すると思うので暫く落ち着いた所で過ごしてください。私ができるのも言えるのもこれだけです。その代わり、解決したら二度私に関わらないでください」
「ララ、そこまですることないよ、ここまで馬鹿にされて、親身にならなくていい」
ララの友人と思われる女生徒がそう口をはさみました。
「いいの、誤解されたままなの嫌だし」
だけど納得しないのは美少年たちです。
「君は、僕達を狙っていたんじゃないのか…?」
「いいえ、全然。むしろ迷惑しています。だって、あなたたちが入学間際の私にあんな事言ったから変な噂がたって、友達が全然出来なかったんですから」
そう。この学園では貴族生まれの力が強くて、貴族の彼らにあんな風に言われてしまったらレッテルを張られてしまう。救いだったのはララは平民クラスで、そんなこと気にしない生徒がいたから。そして、まだ学園に通う彼らには実権が何もなく、彼らの害意をそこまで気にしなくていいと言う事だろうか。
「あなたたちは優れた容姿をお持ちで、女性関係でこれまで苦労したかもしれませんが、だからと言ってよく知らない相手を悪く言うのはどうかと思います」
「…すまない」
ともかく誤解は解けたようだった。その日からララは彼らの世話をすることになった。ノートを貸したり、ララは剣術などは力になれないと言ったが、女性としてはかなり強かった。当たり前だ、入学してからずっと彼女は自分を磨いてきたのだから。芸術に集中できない彼にはこまめに声をかけたりしているらしい。貴族と平民の範疇を越えない程度にだが。そんなことをしているうちに。
「僕は、ララの事を好きになってしまった…」
「は!?お前も!?」「君も!?」
「「「嘘だろ!?」」」
こうなってしまった。
「彼女はあんな口をきいた僕に人として向き合ってくれた、誠実に…」
「剣には人格が出る。あんな真っ直ぐな剣の奴がそんなわけねーんだ。むしろロザリーヌの方が…」
「私の世界にゆっくり付き合ってくれて、それがとても心地よかったんだ…」
三人とも、実力を取り戻すために努力していた。その間ロザリーヌの方には行かなかった。そのせいだろうか、ロザリーヌの事は忘れてしまったらしかった。
「でも君たち、ロザリーヌは?」
「ロザリーヌはなあ…よく考えたら自分の思い込みで女の子一人おいつめて…」
「何もしなかったしフォローもしなかった人間だし…」
「「「…」」」
三人は同時に席を立った。
「ロザリーヌ、ごめん、他に好きな子ができたから君の傍にいられない」「俺も」「私も」
「…は?」
ロザリーヌはぽかんとした顔でそのまま置いていかれた。
それから数日後。
ララが学園寮まで帰る途中の事…。
黒い影がララを襲った!ところをララがひらりとよけて影にコブラツイストをかけた。
「いたたたたたた!」
「キャアッいきなりなんですか、あなたは!怖いじゃないですか!」
「痛い痛いほんとに痛い」
「何が狙いでこんなことするんですか!言わないと外しませんよ!」
「いたたたた!シャッフル公爵家の命令だ!離してくれえ!」
「シャッフル公爵家…?」
影が答えたらすかさず次は腕ひしぎ十字固めをかける。
「なんでまたかけるんだ!」
「もっと詳しく聞かせてもらえます?」
「ララ!助けに…て、なんだその体勢は…」
「あ、ロザリーヌさんの事が好きな人たちのひとりですよね。丁度よかった。手伝って貰えますか?」
「な、名前を覚えてくれてないのか…?」
その後洗いざらい影から情報を引き出した。後に学園に引き渡した。
「ララさん大丈夫だった?え、技をかけた?危ないからやめなさい!」
「でも先生、やらなきゃやられるところだったんです…」
その後一月ほど、ロザリーヌは学園に来なかった。停学になっていたのだ。
「はー、今日もいい天気だなあ」
ララはそれでのんびりしていた。…が。
「もうロザリーヌさん学園に来ているんだよね…」
一月たち、ロザリーヌは停学を終えて学園に通っている。何か仕掛けて来ると思ったのだが、そのようすはない。それで油断していたのだ。それからまた一月経ったころ。
「ララさん、隣のクラスの人が呼んでる」
別のクラスの知らない女子がララを呼びに来た。
「はーい、なんだろう?」
呼び出されたのは屋上だった。そこにいたのは…。
「ロザリーヌさん…」
「様、とつけるのよ、平民は」
「何の用ですか?私、帰っていいですか」
「駄目よ、まだ。だってあなたは…。」
そこでロザリーヌが一気にララに距離を縮めた。
「ここで自殺するの」
「!?」
ロザリーヌがララの胸の辺りに手を当てる。
黒い光が漏れだした。
「あなたはここで死ぬのよ…私の言うことを聞きなさい。私が屋上から出た後、あなたはここから飛び降りて死ぬの。逆らえないわよね。禁じられた催眠術魔法だから。」
「う…う…」
「あなた、うざいのよ。ざまぁするのは私のはずだったのに。なんで私がされそうになっているわけ?キャラのことも魅了使ったんでしょ?それかもっと古い魔法を見つけたか…。あんたなんかを好きになるはずないもの。だってそういう風に私が書いたんだから…。」
「…なんの話ですか?訳が分からないんですけど」
「…は?」
ララはぴんぴんしていた。
「嘘よ、なんできかないの」
「先輩がどういうつもりで私に魔法かけたのか分かりませんけど、いきなり人の体触るのってどうなんですか?」
その時、校舎に繋がる扉から声が聞こえた。
「ララー!大丈夫か!?」「怪我してないか!?」「まだ生きてるか!?」「ロザリーヌさん、馬鹿なことはやめなさい!」
そして、扉があいた。
「は!?なんで…開かないようにしてたのに」
「ロザリーヌさん、あなたのしたことは全校生徒にばれています。ずっと魔法で学園中に声が響いていました、知らない人間はいませんよ」
「は…は?」
そして。ロザリーヌ・シャッフルは退学となった。
公爵家が揉み消すこともできなかったのである。
そして、数年経ち、ララは学園を卒業した。
『私』はそれを見て満足していた。
『私』は本来のこの小説の、悪役令嬢にざまぁされるヒロインだった。そして、最後は犯罪者達の慰み者にされ…。生き地獄を味わされ続けた。
その時気が狂い、精神がこの世界を離れて、この世界を外側から見ることができたのである。この世界は小説だった。なんでも作者は未プレイの乙女ゲームがあり、キャラデザだけで推していたキャラがいたが、ヒロインが気に入らなかった。それで書いたのである。自分が好きな、その頃流行していた悪役令嬢ジャンル、というのに影響された主人公を中心に、ヒロインを不幸にして、自分だけが愛される話を。そして、悪役令嬢にその小説の作者が転生していた。シナリオ通りに動き、見事私をざまぁした。一度目は。私はストーリーを逆行し、ついでにモデルになったゲームから本来のヒロインの魂を拐ってきた。作者である悪役令嬢のストーリーをぶち壊すために。
なんでも、悪役令嬢というのはストーリーの被害者らしい。かわいそうな存在、だから彼女を助けたくてそんな話が流行ったんだって。でも、じゃあ私は?彼女を引き立てるために生まれた私はかわいそうではないの?私はこの小説のストーリーを壊すことを決意した。だけど、私は作者には勝てない。そういう風に作られてしまっているから。だから、別の作品から借りてくるしかなかった。元のゲームね、ヒロインに名前がないの。だから作者は好きに名前つけたんですって。ララ・フリン。フリンなのは不倫でできた子だから。原作ゲームにはないそんな設定をわざわざつけて、そんなに貶めたかったのかしらね。ロザリーヌの設定も、ヒロインより胸が大きい、ヒロインよりかわいい、ヒロインより優秀って、ヒロインより上であることばかりにこだわった設定だったわね。もっとも、こういう小説ではよくあることらしいけどね。原作ゲームには悪役令嬢なんて存在していなかったのに。
話を戻すわ。無事魂を私の体に入れたけど、問題は肉体に魂が適応しないこと。だから彼女は魔法が使えず、逆に呪いなども効かない体質になってしまった。本来のゲームでは特別な力に目覚めるらしいけどね。まあこの小説ではその力は本来悪役令嬢のものだったって設定だから、変には思わなかったみたい。
だからロザリーヌの魔法が効かなかった。最後に魔法でロザリーヌの声を学園に広げたのは私の魔法よ。私は今魔力だけの存在になっているの…。だけど、そのせいで私はいま消えそうになっている。最後の魔力を使ったから。だけど、満足よ。自分の運命を変える事ができたから。
私を不幸にするのを核に作ったストーリーだから、私が消えたらこの世界も消える。その時にヒロインは元の世界に戻れるようにしたわ。もしかしたら少し影響があるかもしれないけど、あまりないようにはしたつもり。
満足よ。すごく満足。あのバカ作者の鼻をあかせてやれたんだから。だけど、物語のキャラにできるのはそれだけ。それだけだけど、私、頑張ったと思うわ。
※本作は悪役令嬢ジャンルを題材にしていますが、
実際の乙女ゲーム自体を否定する意図はありません。




