ロッキーBBとディアゴノとハッピースポーツと 〜今日の買取奮闘記〜
8月最後の日曜日、午後6時過ぎ。
買取専門店「時の蔵」は、一日の営業を終え、静寂に包まれていた。
今日の買取品を整理しながら、僕、店長のコオタは、なんだか不思議な気分になっていた。
「うーん……今日の買取品は、なんだか強そうな名前のものが多いな……」
僕の呟きに、アルバイトの桃香ちゃんが「店長、どれのことですか?」と首をかしげた。
僕はカウンターに置かれた小ぶりなバッグを指さした。
「ほら、これ。ヴィトンのロッキーBBだろ?名前からして、なんだか拳が強そうだ」
「もう、店長!ボクシング映画じゃないですよ!」
桃香ちゃんは呆れながらも、嬉しそうにそのバッグを手に取った。
「このヴィトン ロッキーBBは、この大きなLVロゴのパドロック(南京錠)が特徴で、すごく人気なんです!このロッキーBBの魅力、全然わかってませんね!」
「そう言われてもなぁ…」
「じゃあ、こっちのブルガリ ディアゴノ ウォッチも、名前が力強い感じがしませんか?」
桃香ちゃんが指さしたのは、ゴツっとした印象の腕時計だった。確かに、ディアゴノという響きは強そうだ。
「でも!」
と、桃香ちゃんはもう一つの腕時計を愛おしそうに持ち上げた。
「私は、こちらのショパール ハッピースポーツ ウォッチの方が好きです!見てください、店長!文字盤の上で、ダイヤモンドがくるくる動くんですよ!このショパール ハッピースポーツの『ムービングダイヤモンド』を見ていると、本当にハッピーな気分になります!」
「え、ダイヤモンドが動くのか…?どういう仕組みなんだ…?」
僕が素朴な疑問を口にした、その時だった。
「こんばんは。力強いブルガリのディアゴノと、遊び心あふれるショパールのハッピースポーツか。実に対照的で面白い名作時計だね」
いつの間にか現れた常連客の田崎さんが、二つの時計を覗き込んでいた。
「田崎さん!」
田崎さんは、まずブルガリ ディアゴノを手に取った。
「ディアゴノという名前は、古代ギリシャ語で『競争』を意味する『アゴン』に由来する。まさに、競争社会を生き抜く現代の男性のための、力強い時計だね」
次に、ショパール ハッピースポーツに目をやり、優しく微笑んだ。
「対して、このショパール ハッピースポーツのムービングダイヤモンドは、『何ものにも縛られず、自由に舞い踊るダイヤモンド』というコンセプトから生まれた。ステンレススティールとダイヤモンドを組み合わせた、当時としては画期的な、自由な発想の象'徴だ」
田崎さんは最後に、ヴィトン ロッキーBBに視線を移した。
「そして、このヴィトン ロッキーBBの大きなパドロック。これは『大切なものを守る』という錠前の本来の意味と、ブランドのアイコンとしての存在感を両立させている。どれも素晴らしい逸品だ」
田崎さんの完璧な解説を聞き終え、僕はなぜだか燃えてきた。
「はぁ〜、ロッキーにディアゴノ(競争)にハッピースポーツか…。なんだか僕も、無性に戦いたくなってきたぞ…!」
僕の突然のやる気に、桃香ちゃんが
「お、店長!いいですね!何と戦いますか?」
と期待に満ちた目で聞いてくる。
僕は二つの腕時計を睨みつけ、真剣な顔で宣言した。
「まずは…このブルガリ ディアゴノと、ショパール ハッピースポーツで…」
「(ごくり…)」
と桃香ちゃんと田崎さんが固唾を呑んで見守る。
「……腕相撲だ!どっちが本当に強いのか、ここで決着をつけてやる!」
僕の渾身の提案に、桃香ちゃんが盛大にズッコケた。
「時計は競技者じゃありません!それに、見た目で勝負は決まってますよ!」
隣で田崎さんが
「ははは、コオタ君は平和な競争が好きなようだね」
と肩を揺らして笑っている。
夏の終わりの「時の蔵」は、今日も平和な笑いに包まれていた。




