表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/45

ロッキーBBとディアゴノとハッピースポーツと 〜今日の買取奮闘記〜

8月最後の日曜日、午後6時過ぎ。

買取専門店「時の蔵」は、一日の営業を終え、静寂に包まれていた。


今日の買取品を整理しながら、僕、店長のコオタは、なんだか不思議な気分になっていた。


「うーん……今日の買取品は、なんだか強そうな名前のものが多いな……」


僕の呟きに、アルバイトの桃香ちゃんが「店長、どれのことですか?」と首をかしげた。

僕はカウンターに置かれた小ぶりなバッグを指さした。


「ほら、これ。ヴィトンのロッキーBBだろ?名前からして、なんだか拳が強そうだ」


「もう、店長!ボクシング映画じゃないですよ!」


桃香ちゃんは呆れながらも、嬉しそうにそのバッグを手に取った。


「このヴィトン ロッキーBBは、この大きなLVロゴのパドロック(南京錠)が特徴で、すごく人気なんです!このロッキーBBの魅力、全然わかってませんね!」


「そう言われてもなぁ…」


「じゃあ、こっちのブルガリ ディアゴノ ウォッチも、名前が力強い感じがしませんか?」


桃香ちゃんが指さしたのは、ゴツっとした印象の腕時計だった。確かに、ディアゴノという響きは強そうだ。


「でも!」

と、桃香ちゃんはもう一つの腕時計を愛おしそうに持ち上げた。


「私は、こちらのショパール ハッピースポーツ ウォッチの方が好きです!見てください、店長!文字盤の上で、ダイヤモンドがくるくる動くんですよ!このショパール ハッピースポーツの『ムービングダイヤモンド』を見ていると、本当にハッピーな気分になります!」


「え、ダイヤモンドが動くのか…?どういう仕組みなんだ…?」


僕が素朴な疑問を口にした、その時だった。


「こんばんは。力強いブルガリのディアゴノと、遊び心あふれるショパールのハッピースポーツか。実に対照的で面白い名作時計だね」


いつの間にか現れた常連客の田崎さんが、二つの時計を覗き込んでいた。


「田崎さん!」

田崎さんは、まずブルガリ ディアゴノを手に取った。


「ディアゴノという名前は、古代ギリシャ語で『競争』を意味する『アゴン』に由来する。まさに、競争社会を生き抜く現代の男性のための、力強い時計だね」


次に、ショパール ハッピースポーツに目をやり、優しく微笑んだ。


「対して、このショパール ハッピースポーツのムービングダイヤモンドは、『何ものにも縛られず、自由に舞い踊るダイヤモンド』というコンセプトから生まれた。ステンレススティールとダイヤモンドを組み合わせた、当時としては画期的な、自由な発想の象'徴だ」


田崎さんは最後に、ヴィトン ロッキーBBに視線を移した。


「そして、このヴィトン ロッキーBBの大きなパドロック。これは『大切なものを守る』という錠前の本来の意味と、ブランドのアイコンとしての存在感を両立させている。どれも素晴らしい逸品だ」


田崎さんの完璧な解説を聞き終え、僕はなぜだか燃えてきた。


「はぁ〜、ロッキーにディアゴノ(競争)にハッピースポーツか…。なんだか僕も、無性に戦いたくなってきたぞ…!」


僕の突然のやる気に、桃香ちゃんが

「お、店長!いいですね!何と戦いますか?」

と期待に満ちた目で聞いてくる。


僕は二つの腕時計を睨みつけ、真剣な顔で宣言した。


「まずは…このブルガリ ディアゴノと、ショパール ハッピースポーツで…」


「(ごくり…)」

と桃香ちゃんと田崎さんが固唾を呑んで見守る。


「……腕相撲だ!どっちが本当に強いのか、ここで決着をつけてやる!」


僕の渾身の提案に、桃香ちゃんが盛大にズッコケた。

「時計は競技者じゃありません!それに、見た目で勝負は決まってますよ!」


隣で田崎さんが

「ははは、コオタ君は平和な競争が好きなようだね」

と肩を揺らして笑っている。


夏の終わりの「時の蔵」は、今日も平和な笑いに包まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ