グリーンのサブマリとGMTとトータリーPMと 〜今日の買取奮闘記〜
買取専門店「時の蔵」は、静かに営業終了の時間を迎えた。
夏の終わりの熱気が残る店内で、僕、店長のコオタは、今日の買取品の主役である2本の腕時計を前に、目がチカチカするのを感じていた。
「うーん……緑のに、赤と青の…。なんだか信号機みたいで落ち着かないな……」
「店長、違いますよ!信号機じゃありません!」
僕の呟きを聞きつけたアルバイトの桃香ちゃんが、カウンターの向こうから元気よく声を上げた。
「そちらは、ロレックスのグリーンサブマリーナ 16610LVと、ロレックス GMTマスターⅡ ペプシーカラーです!時計好きの憧れですよ!」
彼女は緑色のベゼルの時計を指さした。
「こっちの緑のが、サブマリーナ誕生50周年記念モデルのグリーンサブマリーナ 16610LV!通称『グリーンサブ』!この16610LVは、特に初期のライムグリーンのモデルは価値が高いんです!」
次に、赤と青のベゼルの時計を指さす。
「そして、この赤と青のツートンカラーがソーダみたいなのが、ロレックス GMTマスターⅡ ペプシーカラーです!この配色から『ペプシー』って呼ばれてるんですよ!」
「野菜に飲み物か…。今日のロレックスは、なんだか健康的だな…」
僕がぼんやりと呟いていると、桃香ちゃんはヴィトンの査定品に目を移した。
「あ、こちらのヴィトン トータリーPM ダミエ・アズールも素敵ですよね。ダミエ・アズールの白と青の爽やかな感じが、夏の終わりにぴったりです。このトータリーPMも廃盤になって久しいですけど、根強い人気がありますね」
「確かに、このダミエ・アズールは涼しげだな」
「でも、こっちのお財布はすごく賑やかですよ!」
桃香ちゃんが手に取ったのは、手書き風のイラストが描かれたポップな財布だった。
「これは新作、ヴィトン TMコラボ ポルトフォイユ・ルーです!アーティストのタイラー・ザ・クリエイターとのコラボ品で、この手書き風のモノグラムが可愛いんです!このTMコラボは、今までのヴィトンとは全然雰囲気が違いますよね!」
僕がヴィトンのデザインの幅広さに驚いていると、カランコロン、と聞き慣れたドアベルの音がした。
「こんばんは。おや、グリーンサブマリーナ 16610LVとGMTマスターⅡ ペプシーが揃い踏みとは。壮観だね」
閉店後の常連客、田崎さんの登場だ。
彼はグリーンサブマリーナを手に取ると、目を細めた。
「このグリーンサブマリーナ 16610LVは、ベゼルの“4”の書体が少し平たい『ファット4』と呼ばれる初期モデルだと、さらに価値が跳ね上がる。鑑定士泣かせの一本だよ」
田崎さんは次に、TMコラボの財布に目をやった。
「伝統を重んじる一方で、このヴィトン TMコラボ ポルトフォイユ・ルーのように、新しい才能と組んで若々しいデザインを生み出す。ルイ・ヴィトンの懐の深さを感じるね」
田崎さんの深い解説に、僕の頭は情報でいっぱいになった。
「緑に赤に青に白に…おまけに手書き風…。もう情報が大渋滞だ…」
僕が頭を抱えていると、桃香ちゃんがいたずらっぽく笑って、無茶な質問をしてきた。
「じゃあ店長、もしこのロレックスを2本同時につけるとしたら、どっちを右腕につけますか?」
「え、2本同時!?」
僕は少し真面目に考えて、答えた。
「うーん……やっぱり、右腕にはロレックス GMTマスターⅡ ペプシーカラーかな…」
「どうしてですか?」
と不思議そうに桃香ちゃんが聞く。
「だって、利き腕の右手でジュース(ペプシー)を飲んで、左腕のグリーンサブマリーナを見ながらサラダ(グリーン)を食べる。完璧な健康志向だろ?」
僕の答えに、一瞬の沈黙の後、桃香ちゃんが吹き出した。
「時計をそういう使い方する人、初めて見ました!」
隣で田崎さんも
「ははは、コオタ君の発想はいつも面白いね」
と肩を揺らして笑っている。
夏の終わりの「時の蔵」は、今日も平和な笑い声に包まれていた。




