犬の首輪と、錨の鎖と、Hの金具〜今日の買取奮闘記〜
昼食後の穏やかな時間が流れる「時の蔵」で、アルバイトの桃香が、ポンと手を叩いて高らかに宣言した。
「店長! 田崎さん! 私が最近、一生懸命勉強した、エルメスのブレスレットの知識が、ちゃんと身についているか、お二人にクイズを出してもよろしいでしょうか?」
「ふん、面白い。お前が出すクイズなんぞ、1秒で答えてやる」
コオタ店長は、挑発に乗る気満々だ。
「お手並み拝見といきましょうか、桃香先生」
田崎さんは、にこやかに微笑んでいる。
こうして、桃香主催の「エルメス・ブレスレット腕試しクイズ」が始まった。
【第一問:ロックな魂、コリエ・ド・シアンとリヴァル】
「では、第一問!」
と桃香は声を張る。
「犬の首輪からヒントを得た、ピラミッド型のスタッズが特徴の、ロックでかっこいいブレスレットの名前はなーんだ?」
「コリエ・ド・シアンだ。常識だろ」
店長が、食い気味に即答した。
「ピンポン! 正解です! さすがですね! では、追加問題! そのコリエ・ド・シアンの、象徴的なピラミッドスタッズを、より小さく、ぐっと女性らしくアレンジしたブレスレットの名前は何でしょう?」
「それは、リヴァルですね」
と、今度は田崎さんが穏やかに答える。
「コリエ・ド・シアンの力強さを、よりエレガントに身につけたいという女性の願いを叶えた、素晴らしいデザインです。このリヴァルがあることで、コリエ・ド・シアンの世界観はさらに広がりました」
「田崎さん、大正解です! 犬の首輪がモチーフのコリエ・ド・シアンと、その妹分のリヴァル、セットで覚えると完璧ですね!」
【第二問:Hに込めた、プライド】
「続いて、第二問! エルメスの頭文字『H』が、カチッと音を立てて留まるクラスプになっているのが特徴の、エナメルが美しいブレスレットの名前は?」
「クリックHだ。そんなもの、見て分からないやつはいない」
またしても店長が即答する。
「はい、正解です! このHクラスプが特徴のクリックHは、エルメスのブレスレットの中でも、特に人気の高い代表的なモデルですよね! 私もいつか、このクリックHを自分の腕でカチッとしたいです!」
【第三問:絆の象徴、シェーヌダンクル】
「では、いよいよ最後の問題です!」
桃香は、少しだけもったいぶって、問題を読み上げた。
「船の錨をつなぐ、あの鎖をモチーフにした、エルメスのジュエリーコレクションの、あまりにも有名な名前は何でしょう?」
「それは、シェーヌダンクルですね」
と田崎さんが、うっとりとした表情で答えた。
「固く結ばれた絆、を象徴するとも言われています。ブレスレットだけでなく、ネックレスやリングなど、様々なアイテムで展開されている、メゾンを代表するコレクション。それが、この錨の鎖をモチーフにしたシェーヌダンクルです」
「田崎さん、大正解です! まさに完璧な解説まで、ありがとうございます!」
クイズを終えた桃香は、
「お二人とも、全問正解です! これで、私の知識が間違ってないことも、バッチリ証明されました!」
と、満足げに胸を張った。
「ふん、当たり前のことだ。だが、客に説明するには、その程度の知識は最低限必要だ」
コオタ店長は、少しだけ認めるような口調で言った。
「いえいえ、素晴らしいクイズでしたよ、桃香先生。とても勉強になりました」
と田崎さんが褒めてくれる。
「ありがとうございます!」
桃香はにっこり笑うと、最後に、いたずらっぽい目で店長を見つめた。
「では店長、最後の最後に、超難問です! 今、私と店長を固く結びつけている、目に見えない鎖のモチーフの名前は何でしょう?」
「はあ?」
店長が怪訝な顔をすると、桃香は満面の笑みで答えた。
「正解は、『バイトのシフト』という名のシェーヌダンクルでしたー!」
そのあまりにくだらないクイズの答えに、コオタ店長は一瞬固まった後、心底呆れた声で言った。
「……お前、明日からシフト、半分に減らすぞ」
「えーー! ごめんなさーい!」
桃香の悲鳴と、田崎さんの楽しそうな笑い声が、昼下がりの「時の蔵」に響き渡っていた。




