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その革の名は、シェーブルか、ネゴンダか?

閉店まであと1時間ほどとなり、店内には穏やかな西日が差し込んでいる。

そんな中、アルバイトの桃香が、突然「皆様、お待たせいたしました!」

と、誰もいない客席に向かって深々とお辞儀をした。


「これより、『桃香presents, エルメス・レザー・コレクション』を開催いたします! 私が、それぞれの革になりきって、その知られざる魅力と個性を、余すところなくお伝えします!」


「…また始まったか」

カウンターで伝票整理をしていたコオタ店長は、深いため息をついた。


ちょうど来店した田崎さんだけが、

「ほう、それは面白そうなショーですね。ぜひ、拝見させてください」

と、楽しそうに椅子に腰掛けた。


【エントリーNo.1 & 2:山羊革の姉妹、シェーブル&シェーブル・マイソール!】


桃香はまず、軽やかにスキップしながら登場した。


「トップバッターは、軽さと丈夫さ、そして美しい発色が魅力の山羊革、シェーブルです! 私、シェーブルは、とにかく軽くてとっても丈夫なのが取り柄なんです!」


「なるほど」

と田崎さんが頷く。


「山羊革のシェーブルは、その軽快さが多くの方に愛されていますね。では、こちらのシェーブル・マイソールは、どう違いますか?」


「はい!」

と桃香は少しおしとやかなポーズに変わる。


「私、シェーブル・マイソールは、普通のシェーブルよりも、もっと繊細で柔らかな質感が特徴の、少し内気なお嬢様タイプなんです! この繊細なシェーブル・マイソールの肌、優しく触れてくださいね!」


【エントリーNo.3 & 4:ガーデンパーティの相棒、ネゴンダ&フィヨルド!】


次に桃香は、どっしりと腰を据えたポーズを取る。


「続いては、主にガーデンパーティのために開発されたと言われる、丈夫でしっかり者の革、ネゴンダです! この頼れるネゴンダは、トゴより硬く、カントリーより柔らかい、まさに理想の兄貴分!」


「じゃあ、こっちのフィヨルドは、その兄貴とどう違うんだ」

と店長が問いかける。


「はい! フィヨルドも、ネゴンダと同じく丈夫ですが、最大の特徴は水に強いこと! しかも、トゴより柔らかくて、革目が大きいんです。雨の日でも私を連れ出して!って言う、アウトドア派のいとこ、って感じですかね! 水に強いフィヨルド、覚えてください!」


【エントリーNo.5 & 6 & 7:個性派たちの饗宴!】


桃香は、少しアンニュイな表情で、時が経つのを表現するようにゆっくりと回った。


「次は、玄人好みの革! マットな質感で、傷がつきやすい反面、使い込むほどに美しい飴色に変化していくのが特徴のバレニアです! その傷さえも、私、バレニアの歴史になるんです…素敵でしょ?」


「では、こちらの比較的新しい素材、トリヨン・ノヴィーヨはどうでしょう?」

と田崎さんが問う。


「はい! トリヨン・ノヴィーヨは、人気のトゴに似ていますが、目がもっと細かくて、少し張りがある雄牛の革! 若々しくてエネルギーに満ちた新入生です! この目が細かくて張りがあるトリヨン・ノヴィーヨ、これからの成長に期待してください!」


最後に桃香は、ワイルドなポーズを決めた。


「そしてトリを飾るのは、水牛の革、ブッフル! このブッフルは、なんといってもそのタフな耐久性と、この独特のシワ(シボ)が魅力! 他の誰とも違う道をいく、孤高の一匹狼です! このワイルドなシワを持つブッフルを、お忘れなく!」


ショーを終え、桃香は息を切らしながらも満足げに一礼した。


「どうでしたか!? 私のエルメス・レザー・コレクションは!」


「素晴らしい!」

と田崎さんが拍手する。


「それぞれの革の個性が、まるで目の前にいるかのように、本当によく分かりましたよ」


コオタ店長は、ふん、と鼻を鳴らした。

「…くだらん。だが、まあ…特徴は的確に捉えている。お前がどの革になりきろうが、お前自身はただの桃香だがな」


「えー、そんなことないです!」

と桃香は胸を張る。


「今の私は、使い込むほどに味が出る、バレニアみたいな人間を目指してるんですから!」

その言葉に、店長はじろりと桃香の全身を見て、一言。


「…どっちかというと、お前は水に強くて、丈夫で、ちょっとやそっとじゃへこたれない、ブッフルの方だろうな。そのタフさだけは、認めてやる」


「えぇー!? 私、水牛ですかぁ!?」


桃香の悲鳴のような叫び声と、田崎さんの楽しそうな笑い声が、閉店間際の「時の蔵」に明るく響き渡った。

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