買取専門店「時の蔵」のフェンディバッグ名鑑
月曜日の朝10時39分。
開店直後でまだ客足もまばらな「時の蔵」の店内は、異様な熱気に包まれていた。
店の通路がランウェイと化し、その先では、アルバイトの桃香がスポットライト(店の照明)を浴びて、深呼吸をしている。
「皆様、お待たせいたしました! これより、『時の蔵』特別企画、フェンディ・ランウェイ2025を開催いたします!」
桃香が高らかに宣言すると、カウンター席で腕を組んでいたコオタ店長が、
「…またくだらんことを。店の在庫で遊ぶんじゃないぞ」
と、低い声で呟いた。
「おや、楽しそうな企画ですね。ぜひ、観客の一人として参加させてください」
ちょうど来店した田崎さんが微笑み、こうして、たった三人のための、ささやかで豪華なファッションショーが始まった。
【LOOK 1:マンマバケット - 90's Trendsetter -】
最初に、桃香はマンマバケットを小脇に抱え、軽快な音楽を口ずさみながらランウェイを歩く。
「トップバッターは、90年代の風を纏って華麗に蘇ったトレンドセッター、マンマバケット! ご覧ください、このフラップで自信ありげに輝くFF金具! シンプルなTシャツとデニムに合わせるだけで、一気にコーディネートが今年らしくなります!」
「ふん」
とコオタ批評家が口を挟む。
「見た目はいいが、小脇に抱えるスタイルは、汗や摩擦でバッグの側面が痛みやすい。その注意点も解説に加えろ」
「フランスパン(バゲット)を小脇に抱えるように持つことから、この名がついたと言われています。その名の通りの、軽快なスタイルこそがこのバッグの魅力ですね」
と田崎さんが優しくフォローした。
【LOOK 2:ピーカブー - Timeless Lady -】
次に桃香は、カッチリとしたピーカブーを手に、背筋を伸ばしてエレガントにウォーキングする。
「続いては、流行に左右されない永遠の淑女、ピーカブーの登場です! この上品なターンロック金具が、持ち主の知性と品格を物語っています。ビジネスシーンから、お子様の学校行事まで、どんなフォーマルな場面でも、あなたを格上げしてくれる最高のパートナーですわ!」
「そのターンロック、片手でスムーズに開け閉めできるか? 見た目の美しさだけでなく、使いやすさも重要なポイントだ。客に『使いにくい』と思われたら終わりだからな」
とコオタの鋭い指摘が飛ぶ。
「名前の由来である『いないいないばあ』のように、バッグを開けた時にちらりと見える、内側のデザインや色で遊ぶのも、このバッグの粋な楽しみ方の一つですね」
と田崎さんがコメントした。
【LOOK 3:バイザウェイ - Active All-rounder -】
桃香はバイザウェイを手に、次々と持ち方を変えてみせる。
ハンドバッグからショルダーへ、そしてクラッチへ。
「変幻自在のスーパーモデル、バイザウェイ! 仕事帰りにディナーの予定が入っても、さっとクラッチに持ち替えれば、あっという間にパーティ仕様に! 忙しくも輝く、現代女性の最強の味方です!」
「多機能なのは結構だが、ストラップの付け外しはスムーズか? ハンドルの伸縮は引っかからないか? 確認すべきポイントも多いぞ」
「『By the way』という名前の通り、どこへでも気軽に連れて行ける、その卓越した機能性の高さこそが、このバッグの真髄ですね」
【LOOK 4:サンシャイン - Weekend Casual -】
ショーのトリを飾るのは、大きなサンシャイン・トートだ。
桃香はリラックスした笑顔で、軽やかに肩にかけてみせる。
「フィナーレは、週末の太陽がよく似合う、サンシャイン・トートです! 『FENDI ROMA』の大きなロゴが、休日の開放的な気分を盛り上げてくれます! ざくざく荷物を入れて、ピクニックや海辺へのお出かけに連れて行きたくなりますね!」
「見た目はカジュアルだが、作りはしっかりしている。そのレザーの質感や、べっ甲風ハンドルの作りの良さにも触れろ。ただのロゴバッグじゃないという点を、もっと強調しろ!」
「まさに、その名の通り、持つ人の心を晴れやかにしてくれるような、ポジティブなエネルギーに満ちたバッグですね」
ショーが終わり、桃香は満足げに一礼した。
「いかがでしたか、皆様!」
「ふん、まあまあだな。客への説明としては、及第点だ」
コオタは、珍しく少しだけ評価する言葉を口にした。
「いえ、素晴らしいショーでしたよ。それぞれのバッグの魅力が、手に取るように分かりました」
田崎さんの称賛に、桃香は満面の笑みになった。
「ありがとうございます! じゃあ、ショーの成功を祝して、店長! 今日のお昼は、マンマバケットにちなんで、美味しいフランスパンのサンドイッチが食べたいです!」
桃香がおねだりすると、コオタは心底面倒くさそうに、しかしどこか楽しそうに、こう答えた。
「…なんで俺が奢る流れになってるんだ。…まあ、近所のパン屋で一番安いやつでいいならな」
「やったー!」
桃香の嬉しそうな声が、ショーが終わったばかりの、静かな「時の蔵」に明るく響き渡った。




