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梅雨とセリーヌとお手入れと 〜桃香のファッションショー〜

日曜日の午前9時過ぎ。

大阪の街がようやく活気づき始めた頃、「時の蔵」の中では、早くも一人のモデルがランウェイを歩いていた。

店の大きな姿見の前で、セリーヌのバッグを次々と持ち替えてはポーズを決めている、アルバイトの桃香だ。


「それでは皆様、お待たせいたしました! 桃香のセリーヌ・コレクション、スタートです!」


「おい、店の在庫で遊ぶな。まだ開店準備中だぞ」

バックヤードから出てきたコオタ店長が、心底呆れた顔で言うが、一度ステージに上がった桃香は止まらない。


<シーン1:颯爽とオフィス街を歩くキャリアウーマン>


桃香が最初に手に取ったのは、かっちりとしたフォルムの16(セーズ)バッグだった。彼女は背筋を伸ばし、キリリとした表情で店内を歩く。


「見てください、この洗練された佇まい! 長方形のターンロック金具の輝きが、彼女の知性と揺るぎない自信を物語っています! ミニからラージまで5種類のサイズ展開で、新入社員から役員まで、どんなステージの女性にも寄り添ってくれる、最高のビジネスパートナーです!」


<シーン2:週末のカフェで、軽やかな午後を>


次に桃香は、3つのポーチが連なったトリオバッグを手に取り、ショルダーストラップを外して小脇に抱えた。


「休日は、仕事の鎧を脱ぎ捨てて。必要最低限のものをこのバッグに詰め込んで、おしゃれなカフェで友人とおしゃべり。スマートで軽やかな彼女のライフスタイルを演出します! スナップボタンを外せば、夜のパーティー用のクラッチにも早変わり。旅先でも大活躍の優れものです!」


<シーン3:オンとオフ、二つの顔を持つ女性>


今度は、両サイドに大きなマチを持つトラペーズだ。

「平日はマチを閉じて、知的でクールなビジネスモード。でも、仕事が終われば…」


桃香はバッグのマチを翼のように広げてみせた。

「…ほら、こんなに表情豊かで社交的なフォルムに! オンとオフを完璧に使い分ける、ミステリアスな魅力を持つ女性の完成です!」


「おや、本日は華やかなファッションショーが開催されているようですね」

カラン、とドアベルの音と共に、田崎さんが現れた。最高の観客の登場に、桃香のショーはさらに熱を帯びる。


<シーン4:荷物が多い日でも、エレガンスは忘れない>


桃香は息を切らしながらも、大きなカバファントムを軽やかに持ってみせる。


「荷物が多い日だって、彼女はエレガンスを忘れません! サイドのレザーの紐をきゅっと絞れば上品なシルエットに、緩めれば頼れる大容量のトートバッグに早変わり! ベルト付きの新型なら、アクティブに動いても中身が見える心配はありません!」


<シーン5:古き良きものを愛する、芯の強い女性>


ショーのフィナーレを飾るのは、少しレトロな雰囲気のブギーバッグだ。

桃香が「えーっと、この子の最後のシーンは…」と少し悩んでいると、田崎さんが優しく声をかけた。


「そのバッグは、古き良き時代のアイコンですね。私が若い頃は、活動的な女性たちが、この両サイドのポケットに夢と希望を詰め込んで、新しい時代を切り拓いていたものですよ」


その言葉に、桃香はインスピレーションを得たようだ。

「…そうですね! シーン5は、ヴィンテージファッションを愛し、受け継がれてきた歴史を大切にする、芯の強い女性です!」


華々しい(?)ファッションショーが終わり、桃香は満足げに一礼した。

「バッグが活躍するシーンを想像すると、それぞれの魅力がもっともっとよく分かりますね!」


「ふん。どんなお洒落なシーンで使われようが、うちに来ればただの中古品だ。俺が見るのは、そのシーンで付いたであろう傷や汚れだけだ」

店長は、最後までクールな批評家を気取っている。


「しかし、次の方がどんなシーンでこのバッグを輝かせるのか、想像を巡らせるのも、この仕事の素晴らしいところですよ」

田崎さんの優しいフォローに、桃香は大きく頷いた。


「はい! 私の次のシーンは、ダイエットに成功して、祝賀会で美味しいものを食べるシーンです! その時は、どのバッグを持って行こうかな〜?」


「そのシーンは当分来ないから、心配する必要はない」

店長のバッサリとした一言が、ショーの幕を完全に下ろしたのだった。

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