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プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
ベアトリス、ゲルマンド王都学院 2学期

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第30話 キャンベラから見たアルフレッド=バルグレイン

『あいつの横顔』

 朝靄の中、まだ人の少ない学院の中庭を歩いていると、昨夜の焚き火のあたたかさが、まだ胸の奥に残っているような気がした。


 ベンチに腰かけて、私は小さくため息をついた。


 アルフレッド=バルグレイン。


 あいつのことを、最初はほとんど意識してなかった。


 真面目で、優秀で、静かで……でも、地味で、どこか影が薄い。そんな印象だった。


 初めて話したのは、演劇の配役決めのときだったと思う。


「……ぼくでいいなら、やるよ」


 そう言った彼の声は、思ったよりずっと落ち着いていて、柔らかかった。


 私はその時、自分がちょっと意地になっていたのを覚えてる。ベアトリスが主役に選ばれたことに、悔しさとか、焦りとか、そういう気持ちがごちゃ混ぜになってて。つい、強く出てしまった。


 でも、アルフレッドは怒らなかった。


 いつも静かに、でも確実にみんなを支えてた。


 大道具が崩れそうになったとき、黙って手を差し伸べて支えてたのも彼だったし、照明の子がミスして泣きそうになったときに、そっと声をかけてたのも彼だった。


 けど、誰にも恩を売ろうとしない。


 目立とうともしない。


 でも――私には見えていた。


 あいつの横顔が。


 ひたむきで、まっすぐで、あったかくて。


 舞台の稽古が進むにつれて、私の中で、何かが少しずつ変わっていった。


 あいつが他の子と話してるだけで、なんだかざわつく。


 誰かに笑いかけられて、照れているのを見たときは――むかついた。


 ……何で、こんな気持ちになるんだろうって、何度も思った。


 私はずっと、自分の感情に正直な方だった。好き嫌いははっきりしてるし、納得できなきゃ突っかかるし、嫌いなものは嫌いって言う。


 でも――「好き」って気持ちだけは、簡単には言えなかった。


 言ったら、何かが壊れる気がしたから。


 あいつが優しいのは、みんなに対してだから。私だけに特別なわけじゃないって、何度も自分に言い聞かせた。


 でも、後夜祭の焚き火の灯りの中で、アルフレッドが私に向けて言った一言が――


「……キャンベラ、すごく綺麗だったよ。今日」


 その言葉が、私の中の最後の“つっかえ”を、すっと溶かしてしまった。


 ドキン、と心臓が跳ねて、私の喉がひりついた。


 そのあとの言葉は、もうほとんど覚えてない。


 ただ、言わなきゃって思った。


 もう、これ以上、誤魔化せないって。


「……好き、なんだよ、あんたのこと。ずっと前から、気づいてた」


 そう告げたとき、あいつは、まるで自分のことなんか信じられないって顔をした。


「ぼく……で、いいの?」


「他に誰がいるってのよ」


 私の声は少し震えてたけど、それ以上は嘘じゃなかった。


 あいつの目が、ゆっくり見開かれて、やっと私に手を伸ばしたとき――


 私はようやく、安心できたんだ。


 あのまっすぐな目が、私を見てくれてたって分かって。


 それからまだ一晩しか経ってないけど、私は今、前より少し自分のことが好きになれた気がする。


 だって、あいつの隣に立つって決めたから。


 私はキャンベラ=フェルノ。火を操る魔導士で、負けず嫌いで、正直で……ちょっと不器用。


 でも、それでもいいって言ってくれる相手が、あいつなんだ。


 ……なんだか、変な気分。


 このままずっと、自分の中だけで抱えてるのは嫌だな。


 せっかくだし、ベアにも話そうかな。女子トークってやつ、最近ちょっと楽しいし。


 ……とか思ってたら、もうすぐ授業の時間。


 でも――ちょっとだけ、あいつに会ってから教室に行こうかな。


 そんなことを思って、私はベンチから立ち上がった。


 空はもう晴れていて、秋の風が、ふわりと髪をなでていった。







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