第27話 アルフレッドから見た後夜祭
『焚き火のまわりで』
文化祭の夜が終わりを迎えようとしていた。
けれど、ゲルマンド王都学院の中央広場は、むしろ昼間よりもにぎやかに、明るく感じられた。高く掲げられたランタンがやわらかな橙色の光を放ち、生徒たちは焚き火を囲みながら、笑い声を響かせている。
アルフレッド=クレインは、その中心から少し離れた場所に腰を下ろしていた。
焼きマシュマロ片手に、木の枝を焚き火へとかざす。
……さっきから三本目だ。全部、焦がしている。
「……うまく焼けないなあ」
「それ、火が強すぎるのよ。少し炙るくらいでちょうどいいの」
隣から伸びてきた手が、彼の枝をちょん、と押した。
キャンベラ=フェルノ。
紅蓮のような髪をゆるくまとめ、制服の上から厚手のマントを羽織っている。炎魔法の得意な彼女らしく、焚き火の管理係をずっと任されていた。
「ほら、貸して。教えてあげるから」
「……あ、ありがと」
素直に枝を渡すと、キャンベラは絶妙な距離感で火の加減を見て、くるくるとマシュマロを回し始めた。
その手つきが、なんだかやけに手慣れていて、アルフレッドは思わず聞いてしまう。
「慣れてるね」
「まあ、小さいころから弟たちとやってたから。野営訓練とか、よく行くの」
「訓練……。さすがだなあ」
しばらくして、マシュマロがちょうどいい焼き色になった。
「ほら、どうぞ」
「……!」
渡された串を、アルフレッドは嬉しそうに受け取る。
そっと一口。
「……あ、うまっ!」
外はカリッと、中はとろっと。さっきまでの焦げ焦げマシュマロとは天と地の差だった。
アルフレッドがほっぺたを落としそうになっていると、キャンベラはふっと笑った。
「その顔、子どもみたい」
「う、うるさいなぁ……!」
頬を膨らませながら言い返すと、向こうで焚き火を見ていたランスロットが「仲良しだな」と苦笑しているのが目に入る。
「……なあ、キャンベラ」
「ん?」
「ルークとベアトリス、踊ってたね」
「ええ。なんだか、初々しかったわね。かわいかった」
言葉の端にどこか優しさが混じっていた。普段はクールなキャンベラが、ああいう表情を見せるのは珍しい。
「ベアトリスって、昔はもっととげとげしてたって聞いたけど……今の彼女、すごく穏やかに見えるよ」
「……そうね。変わったのよ、あの子も。ルークのおかげかもしれないけど」
そして、ぽつりと続けた。
「……私たちも、変わっていくのかもしれないわね。知らないうちに」
その言葉に、アルフレッドはちょっとだけ胸がしんとなった。
――変わる、か。
ふと、焚き火を眺めながら思う。
この学院に来てから、自分も少しは変われたのだろうか。
剣も魔法も、人付き合いも、なんとなく皆の後ろを追いかけてばかりいた自分。だけど、今ここで、仲間たちと並んで笑っている。
それは、きっとほんの少しの成長だった。
「なあ、キャンベラ」
「なに?」
「……今日さ、一番楽しかったのって、どの時間?」
キャンベラは少し考えてから言った。
「お菓子屋台のとき。あなたと、ランスロットと三人で、あーでもないこーでもないって味見してたとき」
「えっ、それ?!」
「だって……あなた、最初は遠慮してたのに、途中から味見担当のリーダーみたいになってたじゃない」
「そ、それは……!」
「楽しかったわ。あなたが笑ってくれてたから」
言われて、アルフレッドは思わず顔をそらした。
自分が誰かの「楽しい」の理由になるなんて、思ってもみなかった。
うまく言葉にできなくて、マシュマロをもぐもぐ食べてごまかす。
そうしてるうちに、遠くから鐘の音が響きはじめた。
――後夜祭、終了の合図だ。
名残惜しそうに立ち上がる生徒たち。
焚き火が一本ずつ、魔法の手で丁寧に消されていく。
「……帰ろっか」
「うん」
二人並んで、広場をあとにする。
振り返ると、消えかけた火と、まだ空に残る星だけが見えた。
その星の光が、キャンベラの髪を淡く照らしていた。
「……来年も、こうして笑えるといいな」
思わずこぼれた言葉。
キャンベラは少し驚いた顔をして、やがてやさしく微笑んだ。
「ええ。きっと、来年も楽しいわ。あなたたちと一緒なら」
それは――炎のような、あたたかな笑顔だった。




