表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
ベアトリス、ゲルマンド王都学院 2学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

89/119

第27話 アルフレッドから見た後夜祭

『焚き火のまわりで』

 文化祭の夜が終わりを迎えようとしていた。


 けれど、ゲルマンド王都学院の中央広場は、むしろ昼間よりもにぎやかに、明るく感じられた。高く掲げられたランタンがやわらかな橙色の光を放ち、生徒たちは焚き火を囲みながら、笑い声を響かせている。


 アルフレッド=クレインは、その中心から少し離れた場所に腰を下ろしていた。


 焼きマシュマロ片手に、木の枝を焚き火へとかざす。


 ……さっきから三本目だ。全部、焦がしている。


「……うまく焼けないなあ」


「それ、火が強すぎるのよ。少し炙るくらいでちょうどいいの」


 隣から伸びてきた手が、彼の枝をちょん、と押した。


 キャンベラ=フェルノ。


 紅蓮のような髪をゆるくまとめ、制服の上から厚手のマントを羽織っている。炎魔法の得意な彼女らしく、焚き火の管理係をずっと任されていた。


「ほら、貸して。教えてあげるから」


「……あ、ありがと」


 素直に枝を渡すと、キャンベラは絶妙な距離感で火の加減を見て、くるくるとマシュマロを回し始めた。


 その手つきが、なんだかやけに手慣れていて、アルフレッドは思わず聞いてしまう。


「慣れてるね」


「まあ、小さいころから弟たちとやってたから。野営訓練とか、よく行くの」


「訓練……。さすがだなあ」


 しばらくして、マシュマロがちょうどいい焼き色になった。


「ほら、どうぞ」


「……!」


 渡された串を、アルフレッドは嬉しそうに受け取る。


 そっと一口。


「……あ、うまっ!」


 外はカリッと、中はとろっと。さっきまでの焦げ焦げマシュマロとは天と地の差だった。


 アルフレッドがほっぺたを落としそうになっていると、キャンベラはふっと笑った。


「その顔、子どもみたい」


「う、うるさいなぁ……!」


 頬を膨らませながら言い返すと、向こうで焚き火を見ていたランスロットが「仲良しだな」と苦笑しているのが目に入る。


「……なあ、キャンベラ」


「ん?」


「ルークとベアトリス、踊ってたね」


「ええ。なんだか、初々しかったわね。かわいかった」


 言葉の端にどこか優しさが混じっていた。普段はクールなキャンベラが、ああいう表情を見せるのは珍しい。


「ベアトリスって、昔はもっととげとげしてたって聞いたけど……今の彼女、すごく穏やかに見えるよ」


「……そうね。変わったのよ、あの子も。ルークのおかげかもしれないけど」


 そして、ぽつりと続けた。


「……私たちも、変わっていくのかもしれないわね。知らないうちに」


 その言葉に、アルフレッドはちょっとだけ胸がしんとなった。


 ――変わる、か。


 ふと、焚き火を眺めながら思う。


 この学院に来てから、自分も少しは変われたのだろうか。


 剣も魔法も、人付き合いも、なんとなく皆の後ろを追いかけてばかりいた自分。だけど、今ここで、仲間たちと並んで笑っている。


 それは、きっとほんの少しの成長だった。


「なあ、キャンベラ」


「なに?」


「……今日さ、一番楽しかったのって、どの時間?」


 キャンベラは少し考えてから言った。


「お菓子屋台のとき。あなたと、ランスロットと三人で、あーでもないこーでもないって味見してたとき」


「えっ、それ?!」


「だって……あなた、最初は遠慮してたのに、途中から味見担当のリーダーみたいになってたじゃない」


「そ、それは……!」


「楽しかったわ。あなたが笑ってくれてたから」


 言われて、アルフレッドは思わず顔をそらした。


 自分が誰かの「楽しい」の理由になるなんて、思ってもみなかった。


 うまく言葉にできなくて、マシュマロをもぐもぐ食べてごまかす。


 そうしてるうちに、遠くから鐘の音が響きはじめた。


 ――後夜祭、終了の合図だ。


 名残惜しそうに立ち上がる生徒たち。


 焚き火が一本ずつ、魔法の手で丁寧に消されていく。


「……帰ろっか」


「うん」


 二人並んで、広場をあとにする。


 振り返ると、消えかけた火と、まだ空に残る星だけが見えた。


 その星の光が、キャンベラの髪を淡く照らしていた。


「……来年も、こうして笑えるといいな」


 思わずこぼれた言葉。


 キャンベラは少し驚いた顔をして、やがてやさしく微笑んだ。


「ええ。きっと、来年も楽しいわ。あなたたちと一緒なら」


 それは――炎のような、あたたかな笑顔だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ