第25話 キャンベラ=フェルノから見たベアトリスと文化祭
「ベアトリス様って、ほんとにズルい!」
――文化祭。それは年に一度、生徒たちが全力でふざけて、全力で輝く魔法学院の一大イベント!
もちろん私、キャンベラ=フェルノも全力参加中!
魔法研究科女子代表としてのプライドにかけて、クラスのみんなでアイデアを出し合って作り上げたのが、「魔法喫茶《星のしずく》」! 簡単な占いや手品(風の魔法を応用した演出つき!)、ケーキと紅茶に、可愛い制服。完璧じゃない?
――だった、はず、なんだけど。
「ベアトリス様〜! 写真お願いしまーす!」
「すっごい! まじで氷姫様じゃん……!」
「このメイド服、超似合ってるぅ……!」
はいはいはいはい、みんな静かにしてくださーい! そこ、入り口を塞がないの!
なんでこうなったかって? もちろん原因はあの人――
「……ふふ、ありがとうございます。どうぞ、こちらへ」
――ベアトリス=ローデリア様、です!!
女神か? ってくらい、完璧なメイド服姿で現れた彼女は、文字どおりの目玉。
優雅なお辞儀に、輝く金髪と碧眼、そしてスラリとした姿勢。もう、立ってるだけでオーラが違う。私たちのメイド服が量産型に見えるくらい、別格だった。
でも、ズルいのは見た目だけじゃない!
「さっきの席のお客様、小さな子が紅茶をこぼしそうになっていたから、代わりに冷却魔法で器を支えてあげたのよ」
「すごい……そんな応用、咄嗟にできるなんて」
「子どもの手元って不安定なのよね。私、小さい子の世話は少し慣れているから」
――って、なんでそんな天然さで株上げてくるの!? しかも優しさが無意識なのよ、この人!
さっきなんか、間違えてティーポットを倒しかけた私を、何も言わずに助けてくれた上に、「怪我はない? よかったわ」って、涼しい顔で言うのよ。惚れるじゃん。同性でも惚れるじゃん!
だから私は、メイド服の裾を握りしめながら、つぶやく。
「ベアトリス様って、ほんとにズルい……!」
***
とはいえ、愚痴ばかり言ってるわけじゃないの。
今日はみんなで頑張ってきた日。なんといってもこの喫茶の企画、ベアトリス様が率先して立ち上げてくれたのだ。
私たちが「派手すぎない出し物がいいよね~」って言ってたとき、彼女は真顔で、
「ならば、品のあるテーマで行きましょう。喫茶店なら、魔法との組み合わせで演出できるし、地域の方にも喜ばれるはず」
って、プレゼン並みに提案してくれたんだから。しかも、彼女が出ると知ってから参加希望者が倍増したのは、言うまでもない。
ちなみに、厨房担当のルーク=キリト君は、彼女が「当日も出ます」と言った瞬間、耳まで真っ赤にしてた。
――うん。あれは恋だね。まっすぐすぎてちょっと笑えるけど、なんか応援したくなるやつ。
***
昼過ぎ、ちょっとしたハプニングがあった。
占いコーナーで使ってた魔法水晶が暴走しちゃって、小さな子が泣いちゃったの。私もびっくりして立ち尽くしてたんだけど――
「大丈夫よ。これはちょっと過剰な反応ね。落ち着いて、呼吸して」
そう言って、水晶の魔力をさっと封じて、子どもの頭をやさしく撫でてくれたのも、ベアトリス様だった。
そのとき思ったの。
この人、誰かの前では強くて優しいけど、本当は誰かに寄りかかりたいときもあるんじゃないかなって。
だって、あの夜。準備の打ち合わせが長引いて、帰り道にふたりきりになったとき、ベアトリス様がぽつりとつぶやいたの。
「みんなが楽しんでくれたら、私も嬉しい。……けど、うまくいかなかったらって、少し不安だったのよ」
そのときの横顔。あの完璧なベアトリス様が見せた、一瞬の弱さ。
あれが、私は忘れられなかった。
***
夕暮れ、片付けがはじまった頃。
制服に着替えた彼女は、少しだけ疲れた顔で椅子に座っていた。
「ベアトリス様、おつかれさまです」
「ありがとう、キャンベラ。あなたこそ、ずっと走り回ってたじゃない」
私はためらってから、そっと言った。
「……今日、すごく楽しかったです。ベアトリス様がいたから、みんな頑張れたと思います」
すると彼女は、ほんの少し驚いたような顔をしてから、微笑んだ。
「……そう言ってもらえると、嬉しいわ。私も、すごく楽しかったもの」
それだけで、胸がぎゅっとなった。
私の憧れの人は、ただ強いだけじゃなくて、ちゃんと私たちと一緒に笑ってくれていた。
***
夜。校舎の灯りが落ちて、静かになったあと。
私は空を見上げた。星がきれいで、秋の風が気持ちよくて。
ああ、もう終わっちゃったんだな、って。
でも、その時思ったの。
来年もきっとやりたい。ベアトリス様と、また一緒に。
……もちろんそのときは、負けないくらい、私も“輝いて”みせるんだから




