表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
ベアトリス、ゲルマンド王都学院 2学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/119

第24話 ランスロット・グラディウスから見たベアトリスと文化祭

「氷姫と祭りの午後」

 文化祭の喧騒は、まるでひとつの戦場のようだ。


 魔法塔の高窓から見下ろすと、校庭では屋台が並び、外部からの客がぞろぞろと押し寄せている。各教室も例外なく、何らかの企画で飾られ、喧しくも活気ある笑い声があちこちから響いていた。


 そんな中、俺はというと、誰もいない中庭で少し早めの昼を取っていた。


 人混みは苦手だ。


 剣を握る手がぶれないのと同じように、俺は余計な感情や騒がしさを好まない。冷静であることが、俺の武器だと思っているから。


「……あら、ここにいたのね。グラディウス卿」


 その声に、俺は顔を上げた。


 風が金色の巻き髪を揺らしている。メイド服の上からでも、その気品と存在感は隠せない。


 ベアトリス=ローデリア。


 学院随一の才媛にして、かつて“氷姫”とあだ名された少女。


「ローデリア嬢。お前がこんな騒がしい催しに出るとはな。意外だ」


 俺の言葉に、彼女はふふ、と小さく笑った。


「私だって、人並みにお祭りくらい楽しみたいもの」


 なるほど、と納得はしたが、それでも何かが引っかかる。


 あの孤高の少女が、誰かと肩を並べて厨房に立ち、笑っている。それがどうにも――不思議だった。


「お前が厨房で皿洗いをしていたと聞いたときは、耳を疑ったぞ」


「ふふ、私だってできるのよ。料理は無理でも、片付けくらいはね」


 言いながら彼女は、俺の隣に腰を下ろした。


 昼下がりの中庭。祭りの音が遠くに響く中、ふたりの間には不思議と静けさがあった。


「どうした、喧騒に疲れたか?」


「ううん。……ただ、少しだけ休憩したかっただけ。メイド服って、意外と重いのよ」


 彼女の言葉に、思わず小さく吹き出しそうになる。


 氷のようだった彼女が、こんなにも柔らかく話すようになった。


 変わったのだ。いや、元からそうだったのかもしれない。鎧を脱いだだけで。


「……ローデリア嬢」


「なあに?」


「俺はお前のそういう姿、嫌いじゃないぞ」


 言ったあとで、少し後悔した。


 だがベアトリスは目を見開き――すぐに頬を緩めた。


「……ありがとう。そう言われると、ちょっと救われるわね」


     ***


 午後の催しが始まり、ベアトリスはまた喫茶に戻っていった。


 俺も彼女を見送ったあと、学院内をひとり歩く。


 武芸大会の模擬戦、薬草班の展示、魔法科の簡易占い。


 どれも派手で、どれも生徒たちの工夫が詰まっていて――なぜだか、胸の奥がすうっと温かくなる。


 こういう日常も、悪くない。


 そして、彼女がその中心にいるのなら、なおさら。


     ***


 夕暮れ前、もう一度だけ喫茶に顔を出す。


 中は最後の客でにぎわい、キャンベラが紅茶をこぼして騒ぎ、ルーク=キリトが右往左往していた。


 ルーク。


 ……あいつもまた、変わった男だ。


 剣を握れば一流。だが今は、どこまでも真っ直ぐで、臆病な少年。


 そして、彼女に惹かれているのは明らかだった。


「ランスロット! 暇なら皿でも洗ってってよ!」


 アルフレッドに言われて、俺は渋々厨房に入った。


「俺は皿洗いには向かないぞ」


「いいから手伝って! いまベアトリスが客と写真撮っててさ、ルークがテンパってんの!」


 ……そういうことか。


 そのうち、厨房の扉が開いた。


「助かったわ、ランスロット」


 振り向くと、息を切らせたベアトリスが立っていた。


「さっきのお客、子どもたちばかりでね。ひとりが“氷姫様ってほんとにいたんだ!”って叫んで、大騒ぎになったのよ」


「……それは災難だったな」


 思わず、口元が緩む。


 彼女は軽く息を吐いて笑った。


「でも、楽しかったわ。あの子たちが喜んでくれるなら、少しくらい……氷姫でも、いいかなって」


「……ああ。悪くない呼び名だ。少なくとも、剣を振るうよりは似合っている」


「それ、褒めてるの?」


「……どうだろうな」


 ふたりで笑った。


 もう、彼女は“ひとり”じゃない。


 今はここに、仲間がいて、笑いがある。


 そして、傍らに、あの少年がいる。


 ルーク=キリト。彼の真っ直ぐな想いが、きっと彼女を変えていく。


 それは、俺では届かなかったものだ。


「ローデリア嬢」


「なに?」


「……また迷ったときは、言え。氷姫でも、皿洗いでも、俺はお前を否定しない」


「……うん」


 彼女は小さく、けれど確かに微笑んだ。


 それが今日、俺が見た中でいちばん美しい瞬間だった。


     ***


 祭りの終わりは、静けさとともにやってくる。


 片付けを終えた教室で、ルークとベアトリスが話している姿が、窓の外から見えた。


 何を話しているのかは分からない。


 ただ、彼女の笑顔が、まっすぐルークに向けられていることだけは、はっきりと分かった。


 ――もう、俺の出番はないか。


 そう思いながら、俺はそっと塔の階段を下りていった。


 剣士は剣士らしく。己の役割を、ただ静かに見守るのもまた、ひとつの生き方だ。


 文化祭の終わり、風が金木犀の香りを運んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ