表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
ベアトリス、ゲルマンド王都学院 2学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/119

第21話 ベアトリス、ルークにメイド服を褒められる


 学園祭の一日目が終わるころ、夜の魔塔は嘘みたいに静かになっていた。

 屋台の灯りは消え、歓声も遠くへと薄れていく。代わりに、星空と虫の音が辺りを包む。


 B組の教室では、メイド&執事喫茶の片付けがちょうど終わったところだった。


「椅子よし、テーブルよし……あとは花瓶を元に戻して……っと」


 そう言いながら、ベアトリス=ローデリアは、椅子をきちんと整え、空のティーカップをひとつずつ片づけていった。

 長い髪はほどかれて、いつもの彼女の気品ある雰囲気に戻っていたけれど、まだメイド服は着たままだった。


「ベアトリス様、今日はお疲れさまでした」


 声をかけたのは、静かに教室へ戻ってきたルーク=キリト。

 銀色の髪に夜の月光が差し込み、彼の表情をやわらかく照らす。


「あら、ルーク。あなたこそ、遅くまでありがとう。……接客、上手だったわよ」


「……いえ。僕のほうこそ、今日一日……ほんとうに、いろんな意味で驚かされっぱなしでした」


「ふふ、たとえば?」


 彼女がいたずらっぽく笑うと、ルークは少しだけうつむいた。

 この一日、彼はずっと言いたかったことを、言えずにいた。


 彼女の笑顔を見て、あのメイド姿を見て、心の奥が強く揺れた。でもそれを、言葉にするのが怖かった。

 けれど今、教室には二人だけ。夜の静けさが、そっと背中を押してくれる。


「……メイド服のことです」


 その一言に、ベアトリスはぴたりと動きを止めた。


「……あら、変だったかしら?」


「いえ、そんなこと、ありません」


 ルークは顔を上げ、真っ直ぐに彼女の青い瞳を見つめた。


「すごく、綺麗でした。まるで……夢を見ているみたいで。まぶしすぎて、言葉が出なくて……だから、ちゃんと伝えられなかったんです」


 ベアトリスは少し目を見開いたあと、ふっと笑った。


「あなた、意外と……率直なのね。ちょっとびっくり」


「……すみません。言うべきか迷って……でも、伝えたくて」


「ありがとう。そう言ってくれて、嬉しいわ」


 彼女はそう言って、スカートの裾をつまみ、小さなお辞儀をした。


「本日ご来店、ありがとうございました、ご主人様」


 冗談っぽくそう言う彼女に、ルークは一瞬たじろぎながらも、柔らかく笑った。


「……似合ってました、本当に」


「ふふ、ありがとう」


 ふたりの間に、そよ風が通り抜ける。

 言葉のかわりに、秋の夜の静けさが心地よく満ちていた。


 ベアトリスは少しだけ椅子に腰かけ、隣の椅子をぽんと叩いた。


「ルーク、少しだけ座っていかない? 今日はずっと立ちっぱなしだったでしょう?」


「……はい。少しだけ、お邪魔します」


 ルークは彼女の隣に腰かけた。ふたりの間には、使い終わったティーカップがひとつ。紅茶の香りがほんのりと残っている。


「実はね、私、最初はあんまり乗り気じゃなかったの。メイド喫茶なんて、って」


「……そうだったんですね。でも、やってよかったんじゃないですか?」


「そうね。……こんなにたくさんの人が笑ってくれるなんて、思ってなかった。楽しかったし、いい思い出になったわ」


「僕も……同じです」


 ベアトリスが彼を見て、目を細めた。


「ねえ、ルーク」


「はい?」


「今日、わたし、綺麗だった?」


 その問いに、ルークの目が見開かれる。

 でも、すぐにふっと真剣な眼差しに変わった。


「綺麗でした。……今日だけじゃなく、いつも。でも今日は……特別に、」


「……」


「まるで、物語の中の姫君みたいでした」


 ベアトリスは一瞬、ぽかんとしたあと、思わず吹き出した。


「姫君って……あなた、本当に面白いわね」


「……冗談じゃありません」


 ルークの声は真っ直ぐだった。だから、ベアトリスもそれ以上は茶化さなかった。

 秋の夜、静かに過ぎていく時間の中で、ふたりはただ隣に並んで座っていた。


 やがて。


「……来年の学園祭は、何になるのかしらね」


「そうですね。また一緒にできたら、嬉しいです」


「ええ、わたしも」


 そう言って、ベアトリスは立ち上がった。


「そろそろ、着替えに行くわ。待たせてごめんなさいね」


「いえ。……楽しかったです」


 そして、彼女が教室の扉へと向かうとき。


 ルークは、小さく呟いた。


「……本当に、綺麗だった」


 それは、誰にも聞こえない声だったけれど――

 不思議と、ベアトリスの歩みに一瞬だけ揺らぎがあった気がした。


 彼女の背中は、どこか少しだけ、嬉しそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ