第18話 ベアトリス、文化祭の出し物に戸惑う
王都の空が澄みわたる季節――秋の風が魔塔の回廊を吹き抜ける頃、ゲルマンド王都学院には年に一度の大イベント「学園祭」が近づいていた。
「それで、我らB組の出し物だけどだな――!」
放課後の教室、赤髪の少年・アルフレッド=バルグレインが、机の上にどんと両手をついて立ち上がる。その瞳は燃えるようにギラついていた。
「焼き肉店しかないだろ!」
「却下よ」
即座に、美しき伯爵令嬢ベアトリス=ローデリアが優雅に言い放った。金糸の髪がさらりと揺れ、青い瞳がキリリと光る。
「学園祭の屋台において、焦げ臭い煙を立てるなど言語道断。私たちの教室は『スイーツ専門喫茶』が最もふさわしいの」
「はあ!? こちとら、火を起こす訓練も兼ねて、肉を焼いて力をつけるって話なんだぞ!」
「だったら学院の中庭で一人で焼いていれば? そもそも、貴族学院の文化祭で“肉屋”とはなんたる無粋!」
「スイーツこそ甘ったるい! 男子の気合いがまるで入らねえ!」
「味覚の繊細さは教養に通じるの。女子も来客も喜ぶわ。ふんわり栗のモンブラン、焦がしキャラメルのプリン、洋梨とアーモンドのタルト……夢があるでしょう?」
「お前の夢の中に俺は出てこねえな!」
「出したくないもの!」
「なんだとぉ!?」
「ふたりとも、落ち着いてくれ」
パチン、と指を鳴らして青髪の青年・ランスロット=グラディウスが割って入った。魔塔随一の魔導士候補である彼は、冷静な調停役でもある。
「スイーツと焼き肉……どちらも一理ある。ならば双方の案を統合した新案を検討するのが建設的ではないか?」
「たとえば?」とベアトリス。
「まさか“甘辛茶屋”とか言い出すんじゃねえだろうな?」とアルフレッド。
そこへ、銀髪の転校生ルーク=キリトが、ややおずおずと挙手した。
「えっと……あの、メイド喫茶っていうのはどうでしょう」
「メイド喫茶?」と全員の声が重なる。
「……前の学院、ノルデン魔術院では学園祭で一度だけやったんです。男女問わず人気で、料理の内容は自由。甘いものも肉も両方出せます」
「ふむ、なかなか……」とランスロットは顎に手を当てて頷いた。
「でも“メイド”って……メイド服を着るってことよね?」とベアトリスが怪訝な顔をする。
「そ、それは……もちろん、強制ではありません!」とルークは慌てた。「ただ、ちょっとした仮装感覚で、貴族文化に根ざした執事や侍女の装いで接客すれば、来場者も楽しめるかなって……」
そのとき、小さく笑ったのは、桃色の髪を揺らしたキャンベラ=フェルノだった。
「面白いと思うよ。ベアトリスがメイド服を着たら、きっと王都中の男子が来る」
「な……っ!?」とベアトリスは真っ赤になって立ち上がった。
「わ、わたしが……っ、そんな、給仕など……!」
「大丈夫、僕がエスコートするよ」とランスロットがさらりと言い、ベアトリスはさらに顔を紅潮させた。
すると、アルフレッドがふっと腕を組み、にやりと笑う。
「ふーん……スイーツがあって、肉も出せて、しかもベアトリスがメイド服でおもてなし? ありじゃねえか、それ」
「な、なんですって!? そんな理由で賛成するの、やめなさい!」
「ま、俺はどのみち厨房担当で裏方だからよ。ならいっそ、焼き肉も菓子も出してやるぜ。俺の炎の腕前、見せてやるよ」
「む……そ、それなら、わたしは、わたしは……! 主菓子職人として、厨房に入る!」
「え? 接客は?」
「……べ、別に、着ないとは言ってないけど……! 着るけど! その、ちゃんとしたクラシックメイド風なら……考えてもいい、かも……」
「わあ……!」とキャンベラが拍手し、ルークも思わず目を見張った。「ベアトリスさん、似合うと思います……!」
「そ、そうかな……?」とベアトリスは小声で呟いた。
ランスロットはその横顔をちらりと見て、ほんの少しだけ微笑んだ。
「では、決まりだな。クラスの出し物は《メイド&執事喫茶》に決定ということで」
黒板に魔法のチョークでその案を書き記すランスロットに、教室中から拍手が起きた。
準備期間の忙しさを思えば、大変になるのは目に見えていたが――それでも、なんだか楽しい予感がした。
秋風が窓から入り込み、カーテンをふわりと揺らす。
ゲルマンド王都学院の学園祭は、こうして一歩ずつ幕を開けようとしていた。




