第12話 ベアトリス、ルーク、アルフレッド、ランスロットに噂される
落ち葉が風に舞う午後。学院の中庭は、金色と赤のカーペットを敷いたように秋色に染まっていた。
ルーク=キリトは、銀髪をなびかせながら石畳の道を歩いていた。転校してから数週間、授業にはもう慣れた。だが、周囲の貴族たちのあいだで自然に会話に混ざるには、まだ少しだけ距離があるような気がしていた。
そんなとき、ふいに背後から声がかかった。
「やあ、キリトくん。ひとりで散歩中?」
振り向くと、青い髪のランスロット=グラディウスが優雅に手を振っていた。その後ろには赤髪のアルフレッド、そして桃色の髪のキャンベラ=フェルノの姿もある。
「……ああ。天気がいいから、ちょっと空気を吸いに」
「秋はいいよね。涼しくて、空気が澄んでて。スイーツもおいしくなる季節だし!」
そう言ったランスロットの手には、焼き栗の紙袋があった。どうやら、購買で買ってきたばかりらしい。
「よかったら食べる?」
「……ありがとう」
ルークは少し迷ってから、焼き栗を一つ受け取った。栗の温かさが指先からじんわり伝わってくる。
アルフレッドがにやりと笑って言った。
「ランスロットが誰かに栗を分けるなんて、めずらしいぞ。よっぽど気に入ったらしい」
「うるさいな。たまにはいいじゃないか、こういうのも。……それに、ルークくん、剣の腕、なかなかだね。見てたよ、今日の実技試験」
ランスロットの視線には、真剣な色が宿っていた。
ルークは少しだけ頬をかいた。
「いや……父にしごかれたせいで、体が勝手に動くってだけだよ」
「剣聖カール=キリトの息子、ってだけで注目されるのに、実力も本物とは……すごいよね」
アルフレッドが腕を組んで唸る。
「でも、おまえ魔法の授業も優秀だったよな。マナ操作、初級から中級まで全部こなしてたじゃん。俺なんか未だに『火球』暴発するのに」
「え、暴発するの?」
「たまにな!」
アルフレッドが笑うと、その大声にキャンベラがくすくすと肩を揺らした。かつて冷血とまで噂された彼女も、今ではすっかり周囲に馴染んでいる。
その様子を見て、ルークはふと口を開いた。
「……こうやって、みんなで話してるの、いいね」
「へ?」
アルフレッドが目を丸くする。
ルークは少し目を伏せ、言葉を続けた。
「昔、父が言ってたんだ。『戦うだけじゃなく、仲間と共にいる時間も大切にしろ』って。ここに来て、それがわかってきた気がする」
ランスロットがやわらかく笑った。
「それって……ベアトリスのおかげでもあるんじゃない?」
「……っ」
ルークの耳が、かすかに赤く染まった。
アルフレッドがにやにやと顔を覗き込む。
「おーおー、照れてるな?」
「ち、違う」
ルークが目をそらすと、キャンベラが不意に小さな声で言った。
「でも……わかるよ。ベアトリスって、誰かの心の扉を、ふわって開けるような力、あるから」
その言葉に、一瞬、全員が頷いた。
「ま、それでも俺のほうが彼女と長くつるんでるけどな!」
とアルフレッドが胸を張れば、
「いやいや、スイーツ仲間としては僕が――」
「それ、どっちでもいいんじゃ……」
キャンベラが苦笑まじりに言うと、ランスロットとアルフレッドが声を揃えて言い返す。
「よくない!」
ルークは、そのやりとりを見ながら、ふと笑っていた。
風が吹き抜け、落ち葉が舞い上がる。赤や黄色の葉が、空を泳ぐようにきらめいていた。
そして、ランスロットが言った。
「そうだ、明日の放課後、食堂で秋限定の『モンブランの栗ケーキ』出るんだって。行こうよ、みんなで」
「モンブラン……」
ルークが小さくつぶやくと、ランスロットがニコリと笑った。
「ベアトリスも、たぶん来るよ?」
その一言で、ルークの胸がどくんと鳴った。
「……じゃあ、行こうかな」
風が、再び吹いた。紅葉の下、銀髪の少年は、微笑みを浮かべたまま空を見上げた。
こうして、彼もまた、「王都の金の薔薇」を巡る輪の中に、そっと加わっていくのだった。




