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プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
ベアトリス、ゲルマンド王都学院 2学期

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第5話 キャンベラ視点で見た転校生ルーク

月光の剣士と、桃色の観測者

 秋の風が、塔の高窓から入り込んでくる。少し乾いた空気が、髪の毛をやさしく撫でていった。


 新学期の朝、教室の雰囲気はいつもと違っていた。ざわついているわけではない。かといって静かすぎるわけでもない。ただ、空気の層が、いつもより一枚多く重なっているような、そんな感じ。


 私は窓際の席に座りながら、教室の扉を見つめていた。


 来る。――そう思った。


 転校生。しかも「剣聖の息子」らしい。そんな話、信じないわけにはいかなかった。


 だって、それがベアトリス=ローデリアの隣の席に来るっていうのだから。


 そして、彼は現れた。


 音もなく開いた扉。その向こうから、月光をまとったような少年が、まるで物語から抜け出したように歩いてきた。


 銀の髪。冷たい瞳。完璧に整えられた制服。……ああ、なるほど。これは、騒がれるわけだ。


 「ルーク=キリト。フリューゲン王国よりの留学生であり、剣聖カール=キリトの嫡男だ」


 ヴァルト教授の紹介に、教室中が一気に色めき立った。驚きと尊敬と、少しの緊張。けれど、その中心にいるルーク本人は、表情ひとつ動かさない。


 鋭い観察眼。それは剣士の資質か、それとも――生き方の結果か。


 「今日からこの学院に編入します。……別に目立ちたくて来たわけじゃないので、放っておいてくれて構いません」


 声のトーンは低く、そしてどこか尖っていた。私はすぐに気づいた。彼の視線が向いていたのは、生徒たちではない。――ベアトリスだった。


 彼女は、何も言わずに微笑んでいた。けれど、その笑みの奥には、きっといくつもの想いが込められている。


 「ローデリア嬢の隣だな」


 その一言で、ルークの肩がわずかに跳ねた。


 おもしろい、と思った。


 彼は冷静な仮面を被っているけれど、その下ではちゃんと揺れている。心がある。だからこそ、私は彼を「観測」することにした。


 彼はまだ、誰のことも信用していないようだった。


 机に視線を落としながら、隣のベアトリスに対しては、どこか素直になれない様子。だけど、時折見せる表情の綻びや、彼女の言葉に真っ赤になる耳――それが、彼がここに「ちゃんと居たい」と願っている証拠だと思った。


 ……それは、少し前の私と似ていたから。


 誰とも話さず、必要以上の会話を避け、感情のない顔をして、ただひとりで居場所を確保していたあの頃。そうやって、自分を守っていた。


 でも――ベアトリスが、私を救ってくれた。


 薬をくれたとか、病の妹を助けたとか、そういうことじゃない。


 それだけじゃ、心までは変わらない。


 彼女は、私の孤独を見抜いた上で、あえて明るく接してきた。「無理に話さなくてもいいけど、君は一人じゃないよ」と言ってくれたような、そんな態度で。


 ルークも、たぶんそれに気づき始めている。


 あの金の薔薇の光に、月光が少しずつ溶けていくのが見える。


 ランスロットが茶々を入れ、アルフレッドが熱く語り出し、周囲はどんどん賑やかになっていく。


 でも、ルークはその波に飲まれず、ゆっくりと歩き出すつもりのようだ。焦らず、無理せず、だけど心の中では――「仲間になれるだろうか」「この場所にいていいのか」と問い続けているような眼をしていた。


 今日の昼休み、私はこっそりと屋上に登った。風が強くて、桃色に染めた髪が舞い上がる。


 ベアトリスとルークが、中庭で話しているのが見えた。遠目にだけれど、彼が少しだけ笑ったのがわかった。


 あの笑顔を、彼自身が「許せる」と思えるようになるまでには、少し時間がかかるかもしれない。でも、きっといつか。


 私は、自分の指先を握りながら小さく呟いた。


 「ルーク=キリト。あなたは強いけれど、弱い。でも、その弱さが、あなたの優しさなのだと、私は思う」


 私は見ている。ちゃんと、あなたを見ている。


 ――そして、もしあなたが望むなら、手を貸す準備も、ある。


 新学期の教室は、色彩にあふれている。


 赤い髪の情熱。青い髪の静けさ。金の髪の光。桃色のぬくもり。そして、銀色の月光。


 その中で、ルーク=キリトという転校生は、少しずつ、確かに自分の場所を探していた。


 彼の歩幅はゆっくりだ。でも、その一歩一歩には、剣士としての覚悟と、少年としての不器用な優しさが宿っている。


 ――大丈夫。ここは、もうあなたの居場所だ。


 そう心の中で思いながら、私はまたページをめくった。魔導理論の本の活字が、風にさらわれて、どこか遠くへ飛んでいくようだった。


 秋は、出会いの季節。


 そして――月光の剣士が、再び誰かと「繋がる」ための、始まりの朝だった。

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