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プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
ベアトリス、ゲルマンド王都学院 2学期

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第3話 ベアトリス、転校生ルークのツンデレに笑う

月光の剣士、再会の朝

 鐘の音が響き渡る。重厚な石造りの廊下に、朝一番の音が染み渡っていく。


 ゲルマンド王都学院・魔塔学科第三講堂。長い机と椅子が整然と並ぶ広い教室に、生徒たちのざわめきが広がっていた。


 「聞いた? 転校生来るって」


 「どこからだっけ、フリューゲン?」


 「いや、キリトって名字、聞いたことある気が……」


 そのとき、教室の扉が音もなく開いた。


 風が吹き抜けたような静寂。その中に、彼は現れた。


 銀色の髪。切れ長の目。しっかりと整えられた制服の襟元。姿勢も歩みも一分の隙もなく、その場にいた誰もが言葉を失った。


 まるで月光をまとったかのような佇まいだった。


 「おお、来たか」


 教壇の前に立っていたのは、学院教師のひとり、ヴァルト=ブリューナ教授。魔導理論と剣技融合術の第一人者として知られる老教師だ。厳しそうな顔つきの中に、どこか生徒を慈しむような温かみがある。


 ヴァルト教授は教室を見渡し、ひとつ頷いてから言った。


 「さて、みな、静かに。紹介しよう。この秋から我が学院に編入することになった転校生だ」


 教室内がざわつく。前列の女子生徒が小さく声を上げ、後ろの男子たちがそれを冷やかすような視線を送っていた。


 「名前は――ルーク=キリト。フリューゲン王国よりの留学生であり、剣聖カール=キリトの嫡男だ」


 「っ……!」


 教室が再び凍りつく。


 「あのカール=キリトの息子……!?」


 「剣聖様、キターーーーーー……!」


 「マジで転校してきたのかよ……」


 ざわめきが、やがて尊敬と緊張に変わっていく。


 だが、その中心にいるルーク本人は、至って無表情だった。教壇の前に立つ彼は、まるで騒ぎなど存在しないかのように淡々と頭を下げる。


 「ルーク=キリトです。今日からこの学院に編入します。……別に目立ちたくて来たわけじゃないので、放っておいてくれて構いません」


 言葉の最後に、少しだけ声音が尖った。見れば、視線は生徒たちではなく、教室の右奥――ベアトリス=ローデリアの席のほうを向いていた。


 ベアトリスは、何も言わずに、静かに微笑んでいた。


 月光と薔薇のようなふたりの間に、一瞬、誰も入り込めない空気が流れる。


 「よろしい」


 ヴァルト教授が声を張る。


 「ルークの席は、そこの空いているところだ。――ローデリア嬢の隣だな」


 「……は?」


 ルークが小さく漏らした。ほとんど聞き取れないほどの声だったが、ベアトリスの耳にははっきりと届いた。


 彼女は軽く椅子を引いて言う。


 「ようこそ、ルーク。……隣、空いてるわよ?」


 「っ……ちょ、別に……だからって……!」


 ルークは何か言いかけて、唇を噛むと、無言でその席に腰を下ろした。


 そして、机の上に視線を落としたまま、そっぽを向いた。


 「……油断ならない女だ、本当に……」


 その呟きも、ベアトリスは聞いていた。


 授業が始まる。ヴァルト教授の魔導理論の講義が始まると、生徒たちは一斉にノートを取り始めた。だが、隣に座るふたりの間だけ、微妙な沈黙が漂っていた。


 やがて、ベアトリスがそっと小声で囁く。


 「ねえ、あの夏の夜の肉料理。また食べたいわね」


 「肉があればな」


 即答だった。


 「……そんなことより、今は授業中だろ」


 「ふふ。真面目ちゃんなんだから……」


 「べ、別に君と話したくて隣に来たわけじゃない! 席が指定されただけで!」


 「そう。――でも、ちょっとだけ嬉しいわ。あなたがここにいること」


 「……!」


 ルークはもう一度、机の上を見つめた。


 耳まで真っ赤になっていた。


 前の席にいたランスロット=グラディウスが、それを盗み見て、笑いをこらえながら後ろを向く。


 「おーい、ローデリア嬢。新学期早々、肉の匂いが香ってる気がするぞ」


 「ランスロット、うるさい」


 キャンベラ=フェルノが冷静に言い放った。だが、その声のトーンは、どこか楽しんでいるようだった。


 「……まったく。あのふたりが同じ教室とか、今年の学院、静かにはならなさそうね」


 窓の外、朝の光が塔の中庭を照らしていた。


 教室の片隅、銀色の髪と金色の髪が、静かに並んで揺れている。


 まだ、何も始まってはいない。


 けれど――何かが、始まりそうな気配だけは、誰の目にも明らかだった。

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