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プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
ベアトリス、ゲルマンド王都学院 2学期

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第2章 第1話 ゲルマンド王都学院に新学期がはじまる。

『新学期、魔塔にて』


 朝の光が王都の中心、黄金の魔塔を淡く染める。塔の最上階に位置する王都学院は、長い夏の終わりを迎え、新たな学期の始まりを告げる鐘を鳴らしていた。


 食堂の扉が勢いよく開き、赤いマントをひるがえして飛び込んできたのは、バルグレイン侯爵家の嫡男、アルフレッドだった。


「おいベア、朝からそんな難しい顔してると、肉が逃げるぞ!」


 そう言って、アルフレッドはどさっとベアトリスの向かいに腰を下ろす。髪は以前の銀から、燃えるような赤に染まっていた。夏の間、故郷の山で修行を積んできたという彼の肌は日焼けし、以前にも増して逞しさを帯びている。


 ベアトリス=ローデリアは、彼の顔を見るなり、ふっと微笑んだ。


「夏休み中に、肉に取り憑かれたようね。……その髪、まるで炎の精霊みたい。」


「流行ってるんだろ? 王都じゃ今、髪色変える魔法が人気なんだってさ。ほら、見てみろよ」


 アルフレッドが顎で示した方を見ると、青いローブを翻して現れたのは、ランスロット・グラディウス。彼もまた、新学期に合わせて髪色を変えていた。深い藍色の髪は、空のように澄み、朝の光を柔らかく跳ね返している。


「おはよう、みんな。やっぱり流行ってるね、髪色チェンジ。僕も試してみたよ。ちょっと派手かな?」


「似合ってるわ、ランスロット。あなたらしい色だと思う」


 ベアトリスがそう言うと、ランスロットは少し照れくさそうに笑い、トレーに乗せたクロワッサンをそっと彼女の前に差し出した。


「はい、これ。新作のハニーアップルクロワッサン。君、甘いの好きだったよね?」


「ありがとう。……やっぱりスイーツ仲間は侮れないわね」


 そのやり取りを見ていたアルフレッドが、少し面白くなさそうに鼻を鳴らす。


「まったく、お前らは朝から甘すぎるんだよ」


 そんな彼の隣に、静かに腰を下ろしたのは、キャンベラ=フェルノだった。


「騒がしい朝ね。……あなたたち、変わりすぎじゃない?」


 桃色の髪を軽く揺らしながら、彼女は冷めた口調で言う。だが、その瞳には以前とは違う柔らかさがあった。かつての“冷血特待生”の面影は薄れ、今やベアトリスと自然に会話を交わせるようになっていた。


「キャンベラこそ。髪色、かわいいじゃない。すごく似合ってる」


「べ、別に、流行に乗ったわけじゃ……ちょっと、妹に勧められて」


「ええ、妹さんのセンス、なかなかのものね」


 そう言ってベアトリスが微笑むと、キャンベラはわずかに頬を赤くし、視線を逸らした。


 食堂の窓からは、青く澄んだ空が見える。まだ暑さの残る朝だったが、学生たちの間には新学期の高揚感が満ちていた。


「ところでさあ……聞いた? 転入生の話」


 アルフレッドが声をひそめて言うと、ランスロットが目を輝かせて応じた。


「うん、聞いたよ。隣国フリューゲンから、特別な推薦で来るらしいって。しかも、王族に近い身分だとか」


「またそういう噂を信じて……どうせ、普通の貴族の子じゃないの?」


 キャンベラが冷静に返すが、その表情にはどこか興味の色も混じっていた。


 フリューゲンといえば、王国の西に広がる大森林と雪山を越えた先の隣国。剣聖カールが有名であり、最近は友好使節団の交流も盛んになっている。


「フリューゲンって、ローデリア家との国境の先にある国だよね。夏休みにちょっと近くまで行ったわよ」


 ベアトリスが思い出したように言うと、周囲の空気がぴんと張り詰める。


「その転入生……ベアトリスの関係者ってこともあるのか?」


「わからないけど、もしそうだったら……面白くなるわね。この学院、また何かが始まる予感がする」


 そう語るベアトリスの瞳は、どこか遠くを見つめていた。まるで、まだ見ぬ未来を見通すように。


「おいおい、なんかベアトリスが不吉なこと言いだしたぞ。頼むから、今年こそ平和な学期にしてくれよな!」


 アルフレッドが両手をあげて叫ぶと、みんなの笑い声が食堂に広がった。夏の間、しばし離れていた仲間たちが、再びこうして集い、騒ぎ、語り合う――それは魔塔の朝にふさわしい、明るく力強い始まりだった。


 その時、ふいに食堂の扉が再び開いた。見慣れぬ制服、白銀の髪を風になびかせた少女が、まっすぐこちらへ歩いてくる。


「……まさか、もう来たの?」


 誰かがそう呟いた。


 そして始まる、新たなる波乱と友情と、魔法の物語。

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