第5話 ベアトリス、甘いものの後は、やっぱりお肉が食べたい!
ベアトリス=ローデリア、十五歳。王都学院に通う金髪の伯爵令嬢であり、スイーツと並んでこよなく愛するものがある。
それは――肉。とびきりジューシーで、香ばしく焼かれたお肉。
「ふぅ……このローストチキン、悪くないわね。でも、もっとこう、魂に響く肉が食べたいのよねぇ……」
学院食堂の昼休み。スイーツには満足したものの、肉欲が満たされぬまま、ベアトリスは不満げにフォークを置いた。
その瞬間、彼女の脳裏に浮かんだのは、筋肉隆々で肉に詳しそうなあの男――
「アルフレッド!」
学院騎士団の筆頭候補にして、侯爵家の令息。鍛え上げられた体躯と自信満々の笑みが印象的な彼のもとへ、ベアトリスは一直線に向かった。
「ねえアルフレッド、あなたって美味しいお肉に詳しいでしょ? どこかおすすめないかしら?」
「……肉? 肉が食いたいのか?」
「そうよ。できれば、魂を揺さぶるような、肉の極地……!」
アルフレッドは腕を組み、誇らしげに頷いた。
「ならば――“火山地帯の紅炎ドラゴン”。あいつの尾肉は絶品だ。濃厚な旨味に、弾力、そしてたぎるエネルギー……王国最上級の肉と言われている」
「ドラゴンステーキ……!」
ベアトリスの瞳が輝いた。
そして――
「決まりね。今週末、ドラゴン狩りに行きましょう!」
その場にいたランスロットはスプーンを取り落とした。
「また急だな君は……だが、面白そうだ。同行しよう」
かくして、「ドラゴンステーキ遠征隊」が結成された。
数日後、火山地帯「ヴァル・バロス」の麓。
燃えるような岩肌と硫黄の香りが漂う地に、三人の姿があった。
「ふぅ……暑いわね……でも、肉のためなら我慢できる!」
ベアトリスは白い冒険服をまとい、ミルフィーユ・ロッドを手に火山地帯を進んでいた。アルフレッドは巨大な剣を背負い、いつものように筋肉が光っている。
「ドラゴンの巣はこの先だ。注意しろ、紅炎ドラゴンは魔力耐性が高く、並の攻撃じゃ通じない」
「任せなさい。私の《フレイム・パフェ・バースト》で、奴を飴細工にしてあげるわ」
「……火属性に火属性で挑むつもりか?」
「ふふ、細かいことは気にしないで♪」
そうしてしばらく進んだとき、突如として大地が揺れた。
ズシン、ズシン――地響きと共に、岩山の頂から現れたのは、巨大な翼を持つ紅き獣。
全長十五メートル。瞳は黄金に輝き、尾は鎌のように鋭い。
紅炎ドラゴン――この地の覇者である。
「グォォォオアアアアッ!!」
「きたわね! さぁ、狩りの時間よ!」
ベアトリスが先陣を切って飛び出す。ランスロットが後方から魔法陣を展開し、アルフレッドが突進する!
「喰らえ、《マッスル・チャージ・スラッシュ》!!」
アルフレッドの剣がドラゴンの鱗に直撃するが、傷は浅い。
「ぬぅ、固い……!」
「だったらこっちは――《クリーム・フレア・キャノン》!」
ベアトリスのロッドから、甘くて熱いクリーム状の魔力弾が放たれる。直撃したドラゴンが、たまらず火山のふもとへ飛び退いた。
「よし、怯んだ! ランスロット、今よ!」
「了解。――《エレメント・チェイン:氷雷結界》!」
雷と氷が交錯する魔法が放たれ、ドラゴンの動きが鈍る。そこへ――
「《とっておき、トリプルミート・ジャッジメント!!》」
ベアトリスの魔法が炸裂し、ドラゴンの尾に直撃。肉厚の尾が弾け飛ぶ。
「よしっ、肉は確保したわ!」
怒りに燃えるドラゴンが咆哮を上げるが――そこへアルフレッドの剣が再び閃いた。
「《ファイナル・プロテイン・ブレイク!!》」
一撃――ドラゴンが崩れ落ち、大地が静寂に包まれる。
「……終わったな」
「ふぅ、スイーツもいいけど……たまには肉の味も悪くないわね」
その夜。
王都の屋外バーベキューテラスにて、三人はドラゴンの尾肉をじっくり炭火で焼いていた。
「おお……なんという香りだ……!」
「旨味の暴力ね……この肉、王国でも一級品よ!」
「……わるくない。いや、最高だ」
三人はその夜、肉と勝利の味に酔いしれた。スイーツだけじゃない、肉の絆が新たな冒険を生み出す。
次なる舞台は――“天空のアイスドラゴン”!? それとも“幻のベーコン山脈”か?
ベアトリスたちのグルメ探究は、まだまだ続く――!
(つづく)