第49話 ベアトリス、ルークに稽古をつける!
剣を構えたルークの瞳に、青い光が宿る。
「――後悔するなよ! 俺はこう見えて、学院一の魔法剣士の使い手! ポッと出の女に負けるわけがないのさ!」
その言葉と同時に、ルークの体が風のように走った。
氷の魔力をまとった剣が、凍気を撒き散らしながらベアトリスに迫る。
「はあああっ!」
――かきーんっ!
甲高い音が、山の空気を震わせた。
ベアトリスの前に展開された、透き通るような魔法障壁が、すべての攻撃を防ぎきっていた。
「……どうだ! まいったか!」
自信満々に叫ぶルークだったが――。
「……ま、魔法障壁だと!?」
彼の声が驚愕に変わる。
その間にも、ベアトリスは微笑を浮かべたまま、すこしも動じる様子がない。
「これでもかっ!」
ルークは何度も剣を振るう。風と氷が交差し、地面を凍らせ、空気を切り裂く。
だが――。
そのたびに音もなく展開される魔法障壁に、すべての攻撃が吸い込まれるように遮られた。
「お、俺は……こ、こんなはずは……!」
少年の声は震えていた。自信と誇りを砕かれる感覚に、唇を噛みしめる。
だが。
「――ルーク、勝負はついたわ」
ベアトリスが、そっと手を前に差し出して言った。
やさしい声だった。決して見下したり、嘲笑うような言葉ではない。
しかし、それでもルークは首を左右に大きく振った。
「まだだ……! これだけは出したくなかったが――最終奥義を出す!」
ルークの剣が、ぴたりと止まる。
全身から魔力があふれ出し、銀の髪が風にたなびく。
「いま降参すれば、怪我はしないで済むぞ!」
その顔には気合いと不安が半々で浮かんでいた。
だが――
「ふふ、大丈夫だから。どんどん出してくれていいですわよ?」
ベアトリスは、にっこにこで答えた。
無防備すぎるほどの笑顔。そこには「奥義」だろうが「必殺技」だろうが、一切動じる気配がなかった。
「なっ、なんだその余裕……!」
ルークは叫びながら、最後の魔力を剣に収束させた。
「奥義――《氷牙・絶界陣》!!」
地面に剣を突き立てると、そこから氷の牙のような魔力が無数に噴き出し、ベアトリスの周囲を包囲した。
ドォン――!
爆発的な魔力が周囲を飲み込み、吹雪と閃光があたりを包んだ。
……しん。
やがて雪煙がおさまり、景色が戻ったとき。
そこには――
まったくの無傷で、紅茶を入れ始めているベアトリスの姿があった。
「ふう……良い技でしたわね。魔力の使い方は少し効率が悪いけれど、将来性はありそうですわ」
「なっ……なんで無傷なんだよおおおおっ!?」
ルークはついにその場にへたり込んだ。
ユゥが、ちょこんと彼の隣に座る。
「ルーク、だめだったね……でも、悪くなかったよ!」
「ううっ……ユゥまでぇ……」
その様子に、ベアトリスは紅茶を差し出しながら、優しく声をかけた。
「あなた、頑張りましたわね。強い人って、強がるより、ちゃんと負けを認められる人のことを言うのですわ」
「……俺、悔しいけど、あんた……強いんだな」
「ふふん、当然ですわ。なにせ、もふもふに選ばれし契約者ですもの!」
ベアトリスが自慢げに胸を張ると、ルークはふっと笑った。
「……くそ、負けたよ。でも、いい勝負だった」
「ええ、またやりましょう。次はお菓子でも賭けて?」
「はっ、負けたくねーな……!」
こうして、氷の魔法剣士ルークと、もふもふを愛する天才魔術師ベアトリスの、ちょっぴり不思議な友情(?)の物語が始まったのだった。




