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プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
第一章 ベアトリス、レベル99の少女編

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第44話 ランスロット、高原の風、夏の匂い

高原の風、夏の匂い――ランスロットの手記



 ナースソルト高原に着いた瞬間、俺は「来てよかった」って、心の底から思った。


 王都の夏は、なんていうか、息を吸うのも苦しいくらいだった。石畳の街は熱を溜め込んで、昼を過ぎれば照り返しが肌を焼く。どこへ行っても人だらけで、喧騒と暑さで気が滅入る。それに、最近はちょっと……色々と気を張ることも多くてさ。仲間が増えたり、魔法の訓練もあったり。楽しいけど、やっぱり疲れることもある。


 だから、ベアトリスが「高原に行きたい」って言い出した時、正直大賛成だったんだ。


 馬車でぐんぐん坂を上っていって、やっとたどり着いた場所――その光景は、想像を遥かに超えてた。雲が、俺たちの足元に広がっていたんだぜ? まるで空の上に立ってるみたいで、風が涼しくて、肌に触れるたびに全身が喜んでるようだった。ベアトリスが窓から身を乗り出して「見て、雲が下にあるよ!」ってはしゃいでて、それがまた嬉しそうでさ。ああ、こういう時間、いいなって思った。


 空気が違う。鼻の奥に草の香りが残って、胸の奥までスッとする。王都の空気とは、全然別物だった。


 キャンベラも、アルフレッドも、ベアトリスも、それぞれ違う反応してたけど、みんなこの場所を気に入ってるのはすぐにわかった。特にアルは、こういう静かな場所が似合う。荷物持ちながら黙って景色を見てる背中が、なんだか絵になってた。


 俺はっていうと、もう完全に旅人気分だった。ストローハットなんて普段はかぶらないけど、この時ばかりは似合ってるって自信があったぞ。たぶん、な?


 旅館に着いて、まず驚いたのは“かき氷”だった。いや、あれはもうスイーツってより、芸術だよ。ガラスみたいに透き通った氷が、ふわふわに削られてて、地元のフルーツや抹茶蜜がのっかってるんだぜ? 口に入れた瞬間、サラッと溶けてなくなって、「え? 今、本当に食べた?」ってくらい儚かった。


 俺は調子に乗って「ミックス全部のせください!!」って叫んじまったけど、店主のおじいさんが笑ってくれて、なんだか嬉しかったな。


 キャンベラが「これは自然の魔法」って言ってたけど、ほんと、その通りだと思った。あれは魔法だ。氷の精霊が作ったって言われても、信じるくらい。


 それから、露天風呂も最高だった。丘の中腹にある岩風呂ってだけでロマンあるのに、湯けむりが木々の間から立ち上って、風が時々ふっと吹き抜けてさ。身体中が溶けそうなくらい気持ちよかった。


「ぅぅ~……極楽、極楽……」って思わず声が出ちゃったけど、隣のアルが目ぇ閉じて「静かにしろ」ってぼそっと言ってきてさ。でも、あいつの声もなんか柔らかくて、ぜんぜん怒ってる感じじゃなかった。


 俺は思ったんだ。こういう瞬間が、いちばんの贅沢なんじゃないかって。


 女子たちの方も楽しんでる声が聞こえてきて、なんか安心した。ベアトリスもキャンベラも、普段はそれぞれ違った意味で気を張ってるようなところがある。でも、その夜は二人とも、心からリラックスしてる感じが伝わってきた。湯気越しに響く笑い声って、なんであんなに心地いいんだろうな。


 夜になって、星を見た時のことは、たぶん一生忘れられない。


 旅館の庭の縁側に座って、水出し茶を飲みながら、見上げた空。びっくりしたよ。王都じゃ見えないような星が、まるで近づいてくるみたいに、空いっぱいに広がってた。流れ星も見えたんだ。


 「願い事しないの?」ってベアトリスが聞いて、キャンベラが「今、十分すぎるほど幸せだから」って答えた時……なんか、胸の奥がじんとした。


 俺も思った。ああ、いま、ほんとにいい時間を過ごしてるんだなって。


 アルが「明日、朝霧の谷を歩かないか」って言った時も、すぐ「行く!」って答えた。たぶんみんな、同じ気持ちだったと思う。この時間を、もう少しだけ延ばしたいっていう気持ち。


 あの夜、風が木の葉を揺らしてた。虫の音が心地よくて、街の喧騒も、任務の重圧も、遠くに追いやられたようだった。何も考えずに、ただみんなで笑って、同じ空を見ていた。そんな時間が、何より尊いんだって……初めて、心の底から感じたんだ。


 旅は、目的地に着くことが大事なんじゃない。誰と、どんな風にその時間を過ごすか。きっとそれが、旅の意味なんだろうなって。


 ナースソルト高原は、俺にとって“もうひとつの夏休み”になった。特別な冒険も、戦いもなかったけど、心の奥に残る時間だった。


 帰りの馬車で、また雲の上を走った。窓から顔を出すベアトリスの笑顔が、風に揺れていた。キャンベラはうとうとしてて、アルは静かに本を読んでた。みんな違って、みんな、同じ気持ちでいたと思う。


 ――また、来ような。あの星空の下で、もう一度、笑い合いたい。


 次は……雪見風呂だってさ。へへ、今から楽しみだ。


 俺の“夏陽の風”は、きっとあの高原に、ずっと吹いてる。

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