第43話 ベアトリス、特性ソフトクリームを食べる。うまっ!
ひまわり湖ソフト牧場
ナースソルト高原での動物王国見学の翌日。旅の最終日となった朝、四人は荷物を宿に預けて、最後の目的地へと向かった。
「今日は、ひまわり湖ソフト牧場だよね!」
ランスロットが両手を広げて叫ぶ。
「高原のジャージー牛のミルクで作る、ソフトクリームが名物なんだって」
キャンベラが補足するように微笑み、馬車の中で小さなパンフレットを広げて見せた。
湖のほとりに広がる牧場は、名の通り一面にひまわりが咲き誇っていた。夏の終わりを告げる風が吹くなか、ひまわりたちは黄金の花弁を広げて青空を見上げている。
「わぁ……なんて綺麗なの」
ベアトリスは目を細めて、ひまわり畑の向こうに見える湖面を見つめた。陽光に照らされて水面がキラキラと光り、白い牛たちがのんびりと草を食んでいる姿が見えた。
まずは目当てのジャージーソフトクリームを食べることにして、四人は牧場内のカフェへと入った。
「これが……うん、濃厚で甘いのに、後味がさっぱりしてる!」
ベアトリスが頬を染めながら、嬉しそうに舌を動かす。
「このミルクの味、すごいな。牛って、こんなにすごいものをくれるんだな」
アルフレッドが真顔で感心していると、ランスロットがすかさずつっこんだ。
「今さらかよ! でも……うまいよな!」
「おかわりしたくなるわね」
キャンベラは木製のスプーンで最後の一口を味わい、ふと外の景色に目を向ける。
「ねえ、あそこ。トリック美術館、だって」
道の向こうに、ちょっと変わった形の建物が見えていた。傾いたように見える外観。入り口には「錯視と幻覚の世界へようこそ!」という看板が立っている。
「行ってみよう!」
四人は牧場の散策を終えたあと、美術館へと足を運んだ。
中に入ると、視覚を惑わせるトリックアートの数々が展示されていた。部屋の中で身長が急に伸びたり縮んだりする錯視、壁に描かれた立体風の絵画、逆さの世界、床が傾いて見える廊下など、どれも不思議でユーモラスな展示ばかりだった。
「わっ、これ……ベアトリス、浮いてるように見えるよ!」
「ほんとに? うわぁ、すごいっ」
ベアトリスが手を伸ばすと、その影すらも絵に取り込まれて見えるよう工夫されており、しばらく皆で歓声と笑いが絶えなかった。
「ここ、魔術じゃなくて全部“目の錯覚”なんだよな……人間の目って、面白い」
アルフレッドが、妙に真面目な顔で感想を述べると、キャンベラが微笑んだ。
「こういうの、妹にも見せてあげたいな」
日が傾くころ、美術館を出た四人は、名残惜しさを覚えつつも宿へと戻ることにした。帰りの馬車のなかは、どこか寂しげで、でも満ち足りた空気に包まれていた。
「……楽しかったね」
ベアトリスが、ぽつりと呟いた。
「うん。たくさん見て、触れて、笑って……最高の旅だった」
キャンベラが頷き、アルフレッドは静かに目を閉じたまま言った。
「明日からまた、日常に戻るが……この時間は、忘れない」
「おれ、また来たいな! 絶対来ような!」
ランスロットが元気よくそう言い切る。
馬車が王都の門をくぐる頃には、空に星が瞬いていた。灯りのともる街路を進みながら、四人の旅は、穏やかに、そして確かに幕を下ろしていった。




