第42話 ベアトリス、モフモフと堪能する!
ナースソルト動物王国
ナースソルト高原の山あいでクマの魔獣を退けた後、四人はひとまず宿に戻り、汗と汚れを落として着替えた。そして再び馬車に乗り込み、次なる目的地――ナスソルト動物王国へと向かうことにした。
動物王国までは高原の尾根道を東へと進む。車窓から見えるのは、風に揺れる草原や、小さな池、丘の上で遊ぶ野生のヤマウサギたち。そんな風景を眺めながら、馬車はおおよそ一時間の道のりを揺れながら進んだ。
「……ついたーっ!」
馬車の扉が開くと、最初に飛び降りたのはランスロットだった。目の前に広がるのは、巨大な木造ゲートと、木の看板に描かれた笑顔の動物たち。その下にはこう記されていた――《ようこそ! ナスソルト動物王国へ》。
「わぁ……ほんとに、いろんな動物がいるんだね!」
ベアトリスが目を輝かせてゲートをくぐると、最初に出迎えたのは、氷の小屋でのんびりと過ごすペンギンたちだった。
ここナースソルト動物王国は、高原の涼しい気候を活かして、寒冷地の動物から草食獣、猛獣まで多種多様な生き物を飼育している施設である。
「ペンギン、ほんとに滑ってる……氷の上で、つるんって!」
「ほら、あの子、後ろから突っついてるわ」
ベアトリスとキャンベラが小屋の前で見守るなか、ペンギンたちはコミカルな動きで観客を和ませていた。
ベアトリスは、ペンギンたちの姿をしばらく見つめたあと、小さく息をついた。
「……わたし、小さい頃、母に連れられて田舎の動物園に行ったことがあるの」
ふいに語り始めたその言葉に、隣のキャンベラが視線を向ける。
「そのとき、ちょうどこんなペンギンがいてね。わたしが手袋を落としたら、それをくちばしでちょんちょんって突っついて、柵の向こうに運んでくれたの。びっくりして泣いちゃったけど……嬉しかった」
懐かしむような笑みを浮かべて、ベアトリスは続けた。
「それからなの。動物って、言葉が通じなくても、ちゃんと見てくれてるって思ったの。ずっと、好きなんだ」
「……優しい子ね、あなたも、そのペンギンも」
キャンベラの口元に浮かぶ微笑みに、ベアトリスは少し照れくさそうに笑った。
ほどなくして進んだ先には、ふわふわとしたアルパカやヤギたちが放牧されている広場があり、触れ合いタイムの時間になっていた。
「アルパカ、モフモフだぞっ!」
ランスロットが顔をうずめそうになりながらアルパカを撫で、アルフレッドは落ち着いた様子で隣のポニーを撫でていた。
「……人懐っこいな。王都の馬とは違って、のんびりしてる」
キャンベラは少し離れた場所で、遠くに見える狼のエリアに目を向けていた。
「……あれが、北方の灰色狼か。思っていたより大きい」
「うん……でも、なんだか目が優しい気がする」
ベアトリスもその姿に見入っていた。
昼過ぎになると、牧羊犬によるショーが始まると放送が入り、四人は芝生の観客席に移動した。ステージでは、何頭もの牧羊犬が笛の合図ひとつで羊を見事に追い込み、障害物をクリアしていく。
「うおお、すげー! あの子、ジャンプしたぞ! すっげーな!」
「ランスロット、もう少し落ち着いて……って言いたいけど、まぁわかるわ」
犬たちの賢さに、誰もが拍手を送っていた。
その後は、敷地内の小さなレストランで昼食をとる。地元のミルクを使ったシチューや、野菜のキッシュ、ソーセージプレートなど、高原ならではのメニューに舌鼓を打った。
「……このチーズ、濃厚でおいしい」
アルフレッドが感心したように呟くと、ランスロットはチーズケーキを口いっぱいにほおばって満面の笑みを浮かべた。
「このチーズケーキ、ぜったい買って帰る!」
午後はお土産タイムとなり、園内のショップを訪れた四人はそれぞれのペースで買い物を楽しんだ。
「見て見て、キャンベラ! このナールイネコ、耳がくるんってなってて可愛い……! トートバッグにしよっと♪」
ベアトリスが手に取ったのは、地元の伝説に登場する幻の猫をモチーフにしたバッグだった。
「ふふ、それ似合ってるわ。私は……この狼のマグカップにしようかな。妹が狼好きだから」
キャンベラは、灰色狼の精緻な絵が描かれた陶器のマグカップを手に取った。
一方、アルフレッドが手に取っていたのは――なぜか一本の木刀だった。
「それ……お土産にしては、渋くない?」
ベアトリスが首をかしげると、アルフレッドは少し恥ずかしそうに言った。
「……展示してあった流派の型、試してみたくてな」
「意外に少年心あるじゃん、アル」
ランスロットはチーズケーキを箱ごと大事そうに抱えていた。
「これで明日の朝食も最高だな!」
夕方になると、空には茜色の光が差し込んでいた。そろそろ宿に戻ろうということになり、四人は再び馬車に揺られながら、満ち足りた気持ちで高原の道を戻っていく。
風はやや冷たくなり始めていたが、頬に心地よい。
「今日は……いろんな命に触れた気がする」
ベアトリスがぽつりと呟く。
「クマも、狼も、牧羊犬も、アルパカも……みんな、ちゃんと生きてるんだなって」
隣で、キャンベラが静かに頷いた。
「それを忘れないようにしたいわね。魔術も剣も、命を守るためにあるものだから」
その言葉に、誰もが静かに頷いた。
こうして四人は、満ち足りた一日を終え、また宿の温泉と星空の下へと帰っていく。
風に乗って、どこかで風鈴の音がまた微かに鳴っていた。




