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プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
第一章 ベアトリス、レベル99の少女編

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第41話 ベアトリス、ジビエ料理を楽しむ!

夏陽の風 ―ナースソルト高原・二日目



 朝の光が木々の隙間から差し込んでいる。ナースソルト高原の夜明けは、どこか特別だ。まるで世界がまだ静寂の中にいるような、そんな不思議な空気が漂っていた。


「……ん~……いい匂い……」


 ベアトリスが目を擦りながら、縁側に座る。すでに朝食の準備が整い、香ばしい匂いが旅館の中庭まで流れてきていた。炭火で焼かれる魚と、山菜の味噌汁の香り。ヤマメの塩焼き、イワナの骨酒、季節の山菜の天ぷら――。朝から豪華だが、高原の澄んだ空気と合わせると、不思議と胃が自然に動き出す。


「おはよう、ベアトリス。寝癖、すごいわよ」


 キャンベラがタオルを手にして微笑んだ。今日もすっぴんのままなのに、どこか涼やかな雰囲気を纏っている。


「うー、直してくる~」


 バタバタと洗面所に駆け込むベアトリスを見送りつつ、ランスロットが朝食の席につく。


「ふっふっふ。今日はイワナ二匹ゲットできたからな、俺が一番乗りだぜ!」


「寝坊したくせに……」


 アルフレッドが呆れ顔で続いたが、その口元には微笑みが浮かんでいた。


 朝食を楽しんだあとは、旅館から伸びる遊歩道を歩いてみることにした。木立の中を抜け、小川を渡り、やがて吊り橋へと辿り着く。橋の先には岩場が広がり、川のせせらぎと鳥の声が重なって、まるで絵の中に入り込んだようだった。


「すごい……! 吊り橋って、こんなに揺れるんだ!」


 ベアトリスが歓声を上げながら、橋をそろそろと渡っていく。


「ほら、キャンベラも早く~!」


「私はゆっくり行くわ。こういうの、苦手なのよ……」


 慎重に手すりを掴みながら進むキャンベラの姿に、後ろのランスロットが思わず吹き出す。


「え~、意外だな。魔法で空も飛べるのに?」


「飛ぶのと揺れるのは別問題よ!」


 渡り終えた四人は、吊り橋の先に広がる河原へと降りていった。そこはまるで、自然が用意した遊び場だった。平らな石が並び、浅瀬には小魚が泳ぎ、時折跳ねる水音が耳に心地いい。


「よしっ、水切り勝負しようぜ!」


「やるなら手加減なしよ?」


 アルフレッドとランスロットが石を投げては数回跳ねさせ、ベアトリスは水辺で小魚を追いかけ、キャンベラは岩陰に腰掛けて本を読み始める――。それぞれが、思い思いの時間を楽しんでいた。


 だが、その静寂は唐突に破られる。


「た、たすけてぇぇぇーっ!!」


「く、クマだーっ! 魔獣のクマがぁぁ!」


 川の上流から、駆け下りてくる村人たちの叫び声が響いた。振り返ると、確かに山道の影から、黒々とした巨体が姿を現す。熊のような姿だが、背中には岩のような甲殻、そして目は赤く光っている。


「クマの魔獣……ッ!」


 ランスロットがすばやく腰の剣を抜き、ベアトリスを背後に庇う。


「皆、離れて! これはただの獣じゃないわ。魔力を帯びてる……!」


 キャンベラが杖を構え、魔法の詠唱を始める。アルフレッドは手際よく魔術式を展開し、空間を固定する結界を張る。


「くっ、突進してくるぞ!」


 魔獣が咆哮し、地面を蹴って突進してくる。その質量と勢いはまるで暴風のようだった。


 だが、四人はすでに動いていた。ランスロットが魔獣の正面に立ち、太刀筋で注意を引きつける。その間にアルフレッドが封印術を組み上げ、足元に魔法陣を展開。ベアトリスは支援魔法で防御力を高め、キャンベラの氷の魔法が魔獣の脚を凍らせる。


「今だ、ランス!」


「おうっ!」


 ランスロットの剣が閃き、魔獣の首筋に深く突き刺さる。次の瞬間、魔獣は絶叫とともに崩れ落ち、静寂が戻った。


「……ふぅ。無事か、皆」


 アルフレッドが安堵の息をつくと、ベアトリスが目を丸くして言った。


「すごい……! 本当に倒しちゃった……!」


「これが“避暑”ってやつかよ……」


 ランスロットが笑いながら剣を納めた。


 村人たちが礼を言いながら駆け寄ってくる。どうやら近くの森で暴れていたらしく、狩猟もままならなかったのだという。


 その日の夕方、旅館に戻った四人を待っていたのは、思いがけないごちそうだった。


「今日は特別に、山の幸のフルコースをご用意しましたよ。先ほどの魔獣――あのクマの肉も、特別に処理してます。クセは強いですが、香草で漬ければ絶品です」


「ま、マジで……?」


 ランスロットが驚きの声を上げる。食卓には、鹿肉のロースト、イノシシの味噌煮、そしてクマ肉のグリル。まさに“山の宴”だ。


「これが……山のフルコンボ……!」


 ベアトリスが目を輝かせて肉を頬張る。


「んん~っ、ジビエ最高っ! あ、でもやっぱり鹿肉が一番食べやすいかな~。イノシシも捨てがたいけど……クマ肉、意外と柔らかいかも!」


「お前、よくそんなに食えるな……」


 ランスロットが苦笑しつつも、彼もまた箸が止まらない。アルフレッドは静かにワインを傾け、キャンベラは一口ずつ、肉の味を丁寧に確かめるようにしていた。


「こういう旅も、悪くないわね……」


「うん、最高の夏休みだよ」


 ベアトリスが笑い、夜風がふっと吹いた。縁側の風鈴が鳴る。その音色に包まれて、ナースソルト高原の夜は、また静かに更けていった。

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