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プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
第一章 ベアトリス、レベル99の少女編

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第40話 ベアトリス、天然氷のかき氷を食べる!

夏陽の風 ―ナースソルト高原



「ふわあ……見て、あれ……雲が下にある……!」


 感嘆の声をあげたのはベアトリスだった。彼女は馬車の窓から顔を出し、遠く下に広がる雲海を眺めている。標高の高い峠道を抜けて、ついに目的地のナースソルト高原へと到着したのだ。


 王都よりもずっと涼しい風が、頬をなでる。どこか草の香りを含んだ風は、夏の日差しとは別物の、澄んだ冷たさをまとっていた。


「うーん、やっぱり高原は涼しくていいなぁ……これなら一日中外にいても汗ひとつかかないぞ!」


 ランスロットが背伸びをしながら深呼吸する。白いシャツにベージュのズボン、そしてストローハットという出で立ちは、田舎の少年のように見えた。


「海もいいが、こっちも悪くないな。静かで、空気が澄んでる」


 アルフレッドも馬車を降り、荷物を担ぎながら辺りを見渡す。見下ろせば谷間には銀色の川が流れ、遠くに放牧された牛や馬が小さく見える。


 ベアトリスは青いワンピースに麦わら帽子をかぶり、まるで童話から抜け出してきたような風情だった。


「……ああ、ほんとに来てよかった」


 彼女が思わず呟いた声に、隣に立つキャンベラがちらりと視線を向ける。


「王都の暑さに耐えられなくなって、急に“避暑に行きたい”って言い出したのはあなたでしょう?」


「だって……かき氷の話してたら、本物の天然氷で作ったやつ、食べたくなったんだもん……」


「ふふ。ま、私も温泉に惹かれたから、文句は言わないけど」


 キャンベラは薄い羽織を翻し、宿へと歩き出した。


 今回の宿は、地元でも有名な温泉旅館だった。天然の湧水を使った露天風呂と、山から切り出した氷で作る「天然かき氷」が売りである。広い庭園の先には足湯があり、夜になれば満天の星空が見えるという。


「……これが、本物の天然氷……!」


 午後、旅館の縁側で出されたのは、まさに芸術のようなかき氷だった。透明感のある氷がふんわりと盛られ、上には地元産の苺や桃、抹茶蜜がかかっている。風に舞う風鈴の音と、ひぐらしの鳴き声が耳に心地よい。


「おいし……っ! 口に入れた瞬間、ふわって溶けた……!」


「これが本当の“氷の魔法”かもな。キャンベラ、負けてるぞ?」


 アルフレッドが冗談めかして言うと、キャンベラは肩をすくめた。


「これは自然の力よ。私の魔法でも真似できないわ」


 ベアトリスは両手で器を抱え、至福の笑みを浮かべていた。額にかかった前髪を軽くかきあげながら、隣のキャンベラを見る。


「ねえ……このまま、ずっとここにいたくなっちゃうね」


「わかるわ。明日から戻るの、ちょっとだけ嫌かも」


 彼女たちの背後では、ランスロットが「ミックス全部のせください!!」と元気よく注文し、店主の老人を笑わせていた。


 その日の夕暮れ、四人は露天風呂へと向かった。温泉は旅館の裏手、小高い丘の中腹にある岩風呂。木々に囲まれ、湯けむりがゆらりと立ち上るその場所は、まるで自然の懐に抱かれているようだった。


「ぅぅ~……極楽、極楽……」


 ランスロットが湯に浸かりながら、肩まで沈み、心底幸せそうな声をあげる。隣のアルフレッドもまた、湯面に顎をのせて目を閉じていた。


「騒がないでくれ、せっかく静かなんだから」


「いやー、でもこれは騒ぐだろ~。だってこのお湯、なんか……心の奥まで温まる感じするんだぜ?」


 一方、女性風呂側でも、湯気の中から楽しげな声が聞こえていた。


「……あははっ。こんなにゆったりお湯に浸かるなんて、王都じゃできないよね」


「体の芯までほぐれていくわ。肌もすべすべになりそう」


 湯船の縁に肩肘をついて空を見上げながら、キャンベラがぽつりと漏らす。


「……ねえ、ベアトリス。今度は雪の温泉とか、どう?」


「いいね、それ! 雪見風呂……ロマンだよね。あったかいお湯と、冷たい空気……最高じゃん」


「じゃあ、次の旅先は決まりね」


 二人は笑い合い、しばしの沈黙のあと、また静かに湯に身を委ねた。


 夜。広間で簡単な夕食を終えた四人は、庭の縁側に腰掛けて、冷たい水出し茶を飲みながら星空を眺めていた。


「……すげぇ……星が、こんなに……」


 ランスロットの声が、心なしかいつもより小さく響く。


「まるで、夜空が近づいてきたみたいだ……」


 星々は確かに手を伸ばせば届きそうなほど近く、きらめいていた。流れ星が一筋、天を横切る。


「願い事、しなくていいの?」


 ベアトリスがぽつりと尋ねると、キャンベラが首を横に振る。


「しない。……今、十分すぎるほど幸せだから」


「……うん、わたしも」


 静かな夜に、波の音も、街の喧騒もない。ただ、虫の音と、遠くの木の葉が揺れる音が心地よく響く。


 アルフレッドが、ゆっくりと立ち上がる。


「……明日、少し早起きして、あの谷の方まで散歩してみないか?」


「いいね、それ。朝霧のなか歩くのって、気持ちよさそう」


「じゃあ、また朝も早起きだな。キャンベラ、起こしてくれよ」


「自分で起きなさい。寝坊したら置いていくわ」


 笑い声が、再び広がった。


 こうして、彼らの“もうひとつの夏休み”――高原の休日は、ゆっくりと夜の静寂のなかへ溶けていった。


 その空には、またひとつ流れ星が落ちていた。

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