第4話 ベアトリス、始動!名もなきスイーツ探偵団(笑)
スイーツサンシャインの極上プリン・ア・ラ・モードを満喫して数日後。学院の中庭では、奇妙な噂が広がっていた。
「最近、夜な夜な学院の厨房に“チョコレートの香り”が立ち込めているらしいぞ」
「しかも、その香りを嗅いだ者は……翌朝、全員“甘味に対する異常な禁断症状”を訴えるんだって……!」
それはまさしく、"スイーツの呪い"――。
「ふむ、これは由々しき事態ね」
ベアトリスは制服のスカートを翻しながら中庭を歩き、真顔でそう呟いた。
スイーツの平和が脅かされるなど、由々しき問題。しかも、誰かが「スイーツの香り」で学院を混乱に陥れている可能性があるのだ。
隣ではランスロットが相変わらずクールな顔をしていたが、彼女が眉をひそめると、素直にうなずいた。
「王都の菓子文化を守るためにも、これは我らが立ち上がるべきだな、ベアトリス殿」
「ええ、もちろんよ。“スイーツ探偵団”の名に懸けて、ね!」
「いつの間にそんな団体が」
――かくして、名もなきスイーツ探偵団が結成された。
夜の学院。人気のない廊下を、ベアトリスとランスロットは静かに歩いた。彼女の手には魔導ランタン、ランスロットの腰には銀細工の杖が光っている。
「厨房の前に、魔力の反応がある。これは……精霊の気配だな」
「見て、ランスロット……あれ!」
彼女が指さす先、厨房の扉が半開きになっており、中からもわもわとチョコの香りが立ち上っていた。
そして、その奥――
「……なんか小さい?」
そこにいたのは、手のひらサイズの……チョコレートゴーレム。
まんまるの体に、とろけるようなミルクチョコの皮膚。ベアトリスの瞳が一瞬で輝いた。
「かわいいっ!!」
「ちょ、待てベアトリス、そいつは……っ!」
しかし時すでに遅し。ゴーレムは小さな両手を挙げ、厨房内のスイーツ素材を次々と引き寄せ始めた。フルーツ、砂糖、小麦粉、クリーム……それらがゴーレムの体に吸収され、ぷくぷくと大きく膨れていく。
「あら……ちょっと大きくなった?」
「これはまずい。召喚されし“スイーツ精霊”が暴走している。いずれ学院をお菓子まみれに……!」
「それはそれで素敵だけど、食べすぎは良くないものね。やるしかないわ」
ベアトリスは、腰の魔法装飾バッグから“ミルフィーユ・ロッド”を取り出す。かつて地下迷宮で拾った謎の魔導具であり、彼女のスイーツ系魔法を増幅する力を持つ。
「《スイート・バリア・ショコラ》!」
バリアがゴーレムの動きを止め、その隙にランスロットが魔法陣を描く。
「《フロスト・クリーム・ケージ》!」
ゴーレムの体がひんやりとしたホイップに包まれ、動きを完全に封じられる。最後に、ベアトリスが優雅に指を弾く。
「《とどめのナッツ・バースト》♪」
炸裂するナッツ。チョコゴーレムが甘く悲鳴を上げながら、クリームと共にふわっと消えていった。
「……ふぅ、やったわ」
「さすが、学院最強のスイーツ戦士」
「なんか肩書き増えてない?」
戦いが終わったあと、厨房には静けさが戻った。だが、そこに残っていたのは――
ゴーレムが吸収しきれなかった最高級素材を使った、究極の一品だった。
「こ、これは……」
「“幻のキャラメルパフェ・ルミエール”……一度食べれば、三日は幸福な夢を見ると言われる伝説のスイーツだ」
「え、そんなのあるの……? いただきます!!」
ベアトリスは迷うことなくスプーンを握りしめ、一口すくって口へと運んだ。とろけるキャラメル、サクサクのビスケット、ふわりと香るバニラビーンズ――
「しあわせ……♡」
ランスロットもつられてスプーンを手に取り、二人は深夜の厨房で、甘美なる余韻に浸った。
こうして学院に再びスイーツの平穏が訪れた。
そしてこの日から、ベアトリスとランスロットは「スイーツ探偵団」の名を、王都学院の伝説として刻むことになる。
次の任務は、幻のマカロンを求めて――!
(つづく)