第35話 ベアトリス、海水浴を楽しむ!
夏陽の潮風 ―海辺の休日―
「うわっ、海だ!」
歓声をあげたのは、ランスロットだった。白い砂浜を一目見て、彼は靴を脱ぎ捨てるようにして走り出した。その姿に、後ろから追いかけてきたアルフレッドが呆れたように笑う。
「まったく、お前は子供か。……まあ、たまにはいいか」
潮風に髪を揺らし、アルフレッドもまた足元のサンダルを脱いで波打ち際へと向かう。その背後から、ひときわ目を引くふたりの女性が歩いてくる。
「ふふっ、楽しそうね。男の子って、海を見るとすぐはしゃぐのね」
笑顔を浮かべながらそう呟いたのは、ベアトリス。彼女は青を基調にしたワンショルダーの水着に、白い薄手のパレオを腰に巻いている。柔らかなカールのかかった金髪が、夏の陽射しを受けてきらきらと輝いていた。
隣を歩くのは、キャンベラ=フェルノ。彼女はシックな黒のビキニに、透け感のあるローブを羽織っていた。長い銀髪を軽くまとめ、サングラスを頭に引っかけている。いつもの冷静な雰囲気とは違い、肩の力が抜けた様子がどこか新鮮だった。
「ふふん……こうなると、男子たちの視線がどこに行ってるか、丸わかりね」
「見てるわね。ふたりとも……可愛いって思ってくれてるのかしら?」
ベアトリスが微笑みながらそう言うと、キャンベラはふっと笑いながら耳打ちする。
「あなたは自覚がなさすぎるのよ。……あれは喜びすぎて鼻血出すんじゃない?」
視線の先、海に突っ込もうとしているランスロットがベアトリスたちを振り返り、そのまま足を滑らせて砂に顔から突っ込んだ。
「わあああ!? ちょ、ちょっと見ないでくれーッ!」
「見てないわよ」
「見てるじゃねぇかあああああッ!」
海風が吹き抜け、真夏の午後に笑い声が弾ける。
日差しが照りつける中、四人は海の家で軽く腹ごしらえをしてから、砂浜へと繰り出した。手には浮き輪やビーチボール、そしてキャンベラが手配したという洒落たビーチパラソルと簡易テーブルまで揃っている。
「……ベアトリス、日焼け止め塗っておきなさい。海に入る前にね」
キャンベラが真面目な口調で言うと、ベアトリスは小さく頷いた。
「うん、ありがとう……あれ? これ、自分じゃ背中届かないかも……」
「あら、どうするの? アルフレッドに頼む?」
「……や、やめてよぉ……! ラ、ランスロットでいいからっ!」
「なんで俺!?」
最終的に、真っ赤になりながらベアトリスの背中に日焼け止めを塗る役を引き受けたのはランスロットだった。塗りながら彼は顔を真っ赤にし、ベアトリスも恥ずかしさに身をよじっていたが、なんとも微笑ましい光景だった。
「うん、終わった。……ああ、手が震えてる……俺、今日、寿命縮んだかもしれん……」
「ありがと……ふふっ」
その後は、海でのひとときが始まった。泳ぎを競い合うランスロットとアルフレッド。浮き輪に乗って波に揺られるベアトリス。波打ち際で水を蹴り上げてキャンベラに攻撃するランスロットだったが――
「反撃よ」
「ぎゃあああ冷たっ!? なんで氷使ってくるの!? ズルい!」
「魔導士ですので」
氷の魔法でつくった氷片が、ランスロットの背中にぴしゃりと直撃する。
そのやりとりを眺めながら、ベアトリスはそっと空を仰いだ。眩しい青空。照りつける陽。きらめく海。穏やかな時間。
(……こういうの、悪くないかも)
彼女はそっと唇に微笑を浮かべ、隣のキャンベラを見る。キャンベラもまた、彼女に視線を投げて小さく頷いた。
午後になり、日差しがやや和らいだころ、四人は浜辺に戻り、簡易テーブルの上に並べられたかき氷に舌鼓を打っていた。
「このブルーハワイって、何の味なんだ……?」
「説明のつかない青い味って感じだね。でもおいしいよ」
ベアトリスはイチゴ味、キャンベラは抹茶味に練乳トッピング。アルフレッドはレモンで、ランスロットは欲張って全部混ぜた結果、謎の色のかき氷を生み出していた。
「これ、絶対魔族とかの食い物だろ……?」
「それを食べてるのは君だけだ、ランスロット」
アルフレッドのツッコミに、キャンベラが吹き出す。
そして、最後のお楽しみ――スイカ割りの時間がやってきた。
「じゃーん、これが今日のスイカです!」
ランスロットが掲げたのは、大きくよく熟れたスイカ。砂浜の中央に設置し、目隠しと棒を準備する。
「じゃあ、まずはベアトリスから! まっすぐ三歩進んで、左にちょっとだけ回って――」
「えいっ!」
ぱこっ。
見事に空振りし、棒は砂をえぐった。
「ああ~、惜しい!」
「ふふっ、なんか楽しいね、これ」
「次は私ね。目隠し、お願い」
キャンベラが棒を手に取ると、ランスロットが「右に……もうちょい……そう、それで――!」と必死にナビゲートする。
「よし……!」
ばんっ!
鈍い音が響き、スイカが真っ二つに割れた。
「やったー!」
「さすがキャンベラさん!」
割られたスイカはきれいに四等分され、四人で頬張った。甘くて冷たい果汁が口いっぱいに広がる。
「夏って……いいね」
ベアトリスの言葉に、全員が静かに頷いた。
陽は少しずつ傾き、空の色がオレンジ色に染まり始める。波の音が静かに耳に響くなか、彼らの笑い声が、夕凪の砂浜にいつまでも残っていた。




