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第33話 ベアトリス、ドラゴンスレイヤーになる!

 ドラゴンスレイヤーになる!


 ドラゴンの咆哮が火山の谷を揺らして消えたとき、アルフレッドは大剣を肩に担ぎながら、はぁと大きく息を吐いた。


 紅炎ドラゴン。強敵だったが、三人の連携と力が勝った。


「……これが、王国最上級の肉か」


 戦闘で飛び散った鱗の破片を踏みしめながら、アルフレッドはベアトリスが嬉しそうに尾肉を魔導バッグに収納している姿を眺めた。あの目の輝き。まるで宝石のように光っていた。


 肉への執念。いや、情熱。彼女のあの瞬間の集中力は、王都騎士団の剣士たちが模範にすべきレベルだった。


(全力で、肉に挑む。全力で、美味を求める……ベアトリス、お前はやはり、只者じゃない)


 彼女の魔法はどこか奇抜で、見た目にも甘ったるいが、命中すれば強烈だ。クリーム・フレア・キャノンしかり、トリプルミート・ジャッジメントしかり。強さと美学が同居している。


 一方でランスロットは、相変わらず冷静沈着な魔法の使い手だった。氷と雷の複合魔法を瞬時に組み上げ、紅炎ドラゴンの巨体を鈍らせたあの精度。魔導戦術家としての実力は本物だ。


 だが――


(……あいつ、なんで平然としてるんだ?)


 火山の熱気の中でも乱れぬ前髪、無駄な動きを一切せず、まるで風の中に佇む氷の彫像のようだった。アルフレッドはちょっとだけ嫉妬していた。


 もっと汗をかけ。もっと雄叫びを上げろ。ドラゴンと戦ったんだぞ?


「さて、今夜はバーベキューだな!」


 場を切り替えるように、アルフレッドは拳を突き上げた。


 その数時間後、王都に戻った三人は、城外の高級バーベキューテラスへ足を運んだ。


 炭火の上に乗せられた、ドラゴンの尾肉。じりじりと脂が滴り、香ばしい煙が立ち上る。


「焼き加減はミディアムレアが最高よ。ほら、表面だけ焼いて、中はジューシーに」


「ふむ、では私は少し火を通してみよう」


「俺は野性味溢れるレアでいく!」


 三者三様の焼き方で、ドラゴンの肉は極上のステーキへと昇華された。


 最初のひと口。ナイフで切り、フォークで持ち上げ、口に運ぶ。


「……ッ!」


 アルフレッドの中に、衝撃が走った。


 濃密な旨味。噛むごとに溢れる肉汁。そして、どこか魔力のような熱を感じる滋養の波。


「これは……これが、魂を揺さぶる肉……!」


 横を見れば、ベアトリスがうっとりと目を閉じて頷いていた。


「そう……これよ、これなのよ。王都の料理でも、貴族の宴でも得られなかったこの感動。これが、冒険して手に入れる“味”なのよ」


 ランスロットも珍しく笑みを浮かべ、小さく呟いた。


「確かに、これは美味だな。……こんな経験、学院では得られない」


 肉が焼け、皿が空になるたび、彼らの会話は弾んだ。


 戦いの反省、魔法の改良案、次のターゲット。


「なあ、次はどうだ? 天空のアイスドラゴン……ってのが北の山脈に棲んでるらしい」


「氷系のドラゴン……となれば、逆に火属性が有効かもね。今度は《メープル・マグマ・スプラッシュ》を試してみようかしら」


「名称がどんどん甘くなってないか……?」


「それが私の流儀よ♪」


 アルフレッドは空を見上げた。


 空には星がまたたき、遠くに赤い月が昇っていた。戦いが終わった夜。だが、次の冒険の幕開けでもある。


 仲間と食う肉は、こんなにも旨いのか。そう思うと、胸の奥が温かくなった。


 そして、彼は確信していた。


(この旅は、まだまだ続く。肉と冒険、そして……この仲間となら、どこまでも行ける)


 彼は再びフォークを手に取り、焼き上がったドラゴンステーキをひと切れ頬張った。


「最高だ。なあ、ベアトリス、ランスロット……次はどこの肉を狩りに行く?」

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モンハンもしくはトリコかな、スイーツで出来た魔物とかいたら喜んで狩りに行きそう…
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