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プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
第一章 ベアトリス、レベル99の少女編

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第32話 ベアトリス、スイーツを堪能する!

◆アフターエピソード:『妖精のきらめき』と勝者の余韻



 ランスロットとの魔法決闘を終え、学院を後にしたベアトリス・ローデリアは、上機嫌で城下町を歩いていた。


「予約、ちゃんと取れてるのよね? 本当に、あの子ったら意地張っちゃって……でも、まあ感謝はしてあげなくもないわ」


 風に揺れる金の巻き髪。制服の上から羽織った白いケープが、春の夕風にふわりと舞う。彼女の足取りは軽い。戦いの疲れも、勝利の余韻に溶けてしまったかのようだった。


 目的地——『スイーツサンシャイン』は城下町の路地裏にひっそりと佇んでいた。看板の妖精のイラストは、今日の限定ロールケーキの名にぴったりで、彼女の胸の期待をより一層膨らませた。


「ふふ……ついに、この時が来たのね」


 ドアを押して店に入る。上品な鈴の音と共に、香ばしいカラメルとバニラの香りが彼女を迎えた。


「いらっしゃいませ、ベアトリス様。お待ちしておりました」


 迎えたのは、落ち着いた雰囲気の中年女性スタッフ。ランスロット家の名が効いたのか、対応も極めて丁寧だ。


「今日の予約席は——こちらですね?」


 通されたのは、奥の窓際の特等席。陽の傾いたオレンジの光が、テーブルクロスを優しく染めていた。


 ベアトリスは席につき、膝にナプキンを置く。テーブルの上には、すでに銀のフォークとナイフ、そして本日の主役——『妖精のきらめき』と名付けられたロールケーキが運ばれていた。


 薄く透けるピンク色のクリームに、砂糖菓子でできた羽が飾られ、まるで本物の妖精がそこに佇んでいるかのよう。


「……綺麗」


 その一言に尽きた。しばらくの間、ベアトリスは何も言わず、ただスイーツを見つめていた。彼女の中の“伯爵令嬢”としての矜持と、“ただの甘いもの好きな少女”としての本音が、静かに交差する。


(あの戦いがなければ、きっと今日この席には座れてなかった。まさか魔法で勝負してまでスイーツを食べる日が来るなんて……でも、後悔なんて一ミリもしてないわ)


「いただきます」


 フォークで一口大に切り取ると、ふわふわのスポンジと、とろけるようなクリームが口の中で溶けていく。甘すぎず、軽すぎず、まさに妖精の舞踏のような味わい。


「……最高」


 ぽつりと呟いたその声は、誰に聞かせるでもない、本心そのものだった。


 しばらく夢見心地でスイーツを堪能したのち、彼女はカップの紅茶に口をつける。ケーキの甘さを引き立てるようにブレンドされた茶葉の香りが、余韻を深くする。


(あのランスロットも、案外役に立つじゃない)


 思い出したのは、敗北に打ちひしがれた彼の姿。だが、それ以上に印象に残ったのは、彼の魔法の完成度の高さと、悔しさに滲む真摯な瞳だった。


「ふふ……また挑んできたりして。今度はチョコレートパフェでも賭けてみようかしら」


 自分でも呆れるほど、スイーツのことばかり考えている。けれど、これがベアトリス・ローデリアという少女の“素”なのだ。


 ——その時。


 テーブルに置かれた小さな包み紙に気がついた。中を開けると、一通の手紙と共に、小さなキャンディが入っていた。


『次は負けない。約束どおり、予約はちゃんと通しておいた。味の感想は——気が向いたら教えてくれ。ランスロット・グラディウス』


「……ふうん」


 思わず笑みがこぼれた。


「やっぱり、憎めないわね」


 彼女はキャンディを口に含む。ベリー系の、少しだけ酸っぱい味。まるでランスロットの性格を表しているかのようだ。


(さて……)


 紅茶を飲み干し、立ち上がったベアトリスは、店を出る前にスタッフへ一言告げる。


「来月の限定ケーキの情報、出たらすぐ知らせてちょうだいな。予約はまたその時に考えるわ」


「かしこまりました、ベアトリス様」


 店を後にし、夜風の中を歩く帰り道。空には小さな星が瞬いていた。


「……あの子も、少しは男らしくなったかしらね」


 ふと、何かが始まる予感がした。


 それが甘い恋の予感なのか、次なる勝負の始まりなのかは、まだ彼女自身にもわからなかったけれど。


 ただ一つ確かなのは、今日の『妖精のきらめき』が、今までのどんなスイーツよりも“心に残る味”だったということ。


「ふふっ……また勝っちゃうかもね、私」


 そう呟く声は、夜の王都に溶けていった。


 こうして、スイーツと勝利を愛する伯爵令嬢の、華やかなる日常は、今日もまた一ページを加えるのだった。

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