第3話 ベアトリス、人気スイーツを簡単に食べられる方法を見つける。
王都学院の昼休み、生徒たちの話題はもっぱら一つの店に集中していた。
「ねえ、知ってる? スイーツサンシャインの限定ロールケーキ、今月は『妖精のきらめき』って名前なんだって!」
「うわぁ、絶対美味しいに決まってる……でも予約取れないんでしょ?」
学院中の甘いもの好きが熱狂する城下町の人気スイーツ店『スイーツサンシャイン』。その名物スイーツは、食べた者を天にも昇る気分にさせるという。
しかし、話題の中心にいるはずの少女——金髪碧眼の伯爵令嬢ベアトリスは、浮かぬ顔で紅茶をすする。
(……すぐに食べたいのに、予約が半年待ち? どういうことなのよ)
その日も彼女は学食で一人、優雅にランチを楽しんでいた。とはいえ、その目はどこか遠く、スイーツへの熱望がにじみ出ている。
そんなベアトリスの前に、ある男が姿を現した。
「やはり、ここにいたか。ベアトリス・ローデリア!」
銀髪をなびかせ、赤いローブを翻しながら現れたのは、公爵家の嫡男にして宮廷魔導士団長の息子、ランスロット・グラディウス。
「ふぁ……何の用? ランスロット」
「貴様が学院最強と呼ばれているのが気に食わん。魔導士として、そして貴族としての誇りにかけて、勝負を挑む!」
周囲の生徒たちがざわめく中、ベアトリスは紅茶を置いて立ち上がった。
「えー、今そんな気分じゃないのだけれど……」
「逃げるのか?」
「いいえ? ただ、面倒なだけよ」
だが、ふと彼女の脳裏に、ある考えが閃いた。
(……公爵家のコネがあれば、予約なんて朝飯前かも)
にこりと笑って、彼女は言った。
「わかったわ。勝負、受けてあげる。でも、条件があるの」
「条件?」
「勝ったら、スイーツサンシャインの『妖精のきらめき』を、今週中にごちそうしてもらうこと。もちろん、あなたの家の力で予約もよろしくね♪」
「……ふん、よかろう。どうせ勝つのは私だ」
こうして、学院裏にある魔法闘技場にて、貴族同士の誇りをかけた勝負が始まった。
開始の合図と同時に、ランスロットは巨大な魔法陣を描き、雷撃の槍を天から召喚する。
「——神雷穿て、《アストラル・ジャヴェリン》!」
雷の槍がうなりを上げてベアトリスに迫る。が——
「《スイート・バリア》」
ベアトリスはふわりと手をかざすと、香り立つ砂糖の膜のような防御障壁が展開され、雷撃を弾き返した。
その姿は、まるでお菓子の精霊が舞い降りたように幻想的。
「なっ……」
「さて、反撃といきましょうか。——《ミルキー・ノヴァ》」
彼女が指を鳴らすと、無数の光球が現れ、甘いミルクの香りと共にランスロットを包み込む。炸裂した光の奔流の中、彼はその場に崩れ落ちた。
「ぐ……なぜだ……魔力量ではこちらが上のはず……!」
「あなた、根性が甘いのよ。スイーツのようにね」
こうしてベアトリスは圧勝を収め、公爵家の力によりスイーツサンシャインの予約を即日確保。
放課後、城下町の隠れ家風の店で、ついに彼女は『妖精のきらめき』を頬張ることとなった。
「ふふ……やっぱり、勝利のスイーツは格別ね」
その日、王都学院の伝説にまた一つ、華やかなエピソードが刻まれたのだった。